リモートワーク、残業規制、パワハラ、多様性…リーダーの悩みは尽きない。多くのマネジャーが「従来のリーダーシップでは、もうやっていけない…」と実感しているのではないだろうか。
そんな新時代のリーダーたちに向けて、認知科学の知見をベースに「“無理なく”人を動かす方法」を語ったのが、最注目のリーダー本『チームが自然に生まれ変わる』だ。
部下を厳しく「管理」することなく、それでも「圧倒的な成果」を上げ続けるには、どんな「発想転換」がリーダーに求められているのだろうか? 同書の内容を一部再構成してお届けする。
リーダーは「Have toまみれ」で当然
リーダーの立場にある人もそうでない人も、いざ自分の「真のWant to」を見つけようとすると、いったい何をどうすればいいのかわからなくなる。実際、そういう人がほとんどではないかと思う。
「本当にやりたいこと」を探すのは簡単なように見えて、じつは難しい。
自分が没頭できることを即座に答えられる人は、そうそういない。
パッと出てきたとしても、せいぜい「お金持ちになりたい」「たっぷり眠りたい」「のんびり暮らしたい」「異性にモテたい」「いい車を買いたい」といった表層的な欲望だろう。
だが、これらがその人にとって真のWant toであることはきわめて稀だ。
また、自分ではWant toだと思っている事柄が、じつは「Have to(やらなければならないこと)」だったりするケースも多い。
Have toとはひと言でいえば、「やりたいわけでも、得意なわけでもないが、やらなければならないこと」である。
たとえば、「英語で契約交渉ができるようになりたい」とか「営業成績を3割アップさせたい」といった願望は、Want toに見えなくもない。
しかし、それらは英語に対するコンプレックスや、社内でのプレッシャーから生まれた願いだったりはしないだろうか。
その欲求の裏側には「もっと英語を話せないといけない」「もっと結果を出さないといけない」という無自覚のHave toが貼りついていないだろうか。
認知科学的に言えば、人の内部モデルの大半は、こうしたHave toによってつくられている。
さまざまな経験や学習を通じて、人間のなかには「世界はこうでないといけない/こうであるべきだ」という型が構築されていく。
われわれは目に映るものすべてをそうした枠組みに従って認知し、その世界像のなかに没入しきっている。
それ自体は決して悪いことではない。
安定した日常生活を送り、スムーズに仕事を回していくうえでは、Want toはノイズでしかないからだ。
「本当はどうしたいか」よりも「とりあえず何をすべきか」だけに目を向けて、それを処理していくほうがはるかに効率的だ。
複数のメンバーのマネジメントを任されているリーダーの立場となれば、なおさらのことである。
したがって、ほとんどのリーダーにおいては、本来持っている真の価値観(Want to)が見えなくなっているのが常態である。
Have toが周囲に分厚くまとわりついて、中核のWant toが覆い隠されてしまっているのをイメージしてもらえばいいだろう。
そんな「やらなければならないこと」にまみれたビジネスの文脈で、「自分は本当は何がしたいのだろうか?」とか「きみは本当は何をやりたいのか?」とかいった問いを発したところで、なかなかうまくいかないのは当然だ。
だからこそ、まず取るべき戦略は「Have toを徹底的に捨てていくこと」になる。
Have toの内実は、「やらなければならない」という認知である。
つまり、より正確に言うなら、Have toとは「やらなければならないと本人が勝手に思い込んでいること」なのだ。
リーダーとしての自分のふだんの行動から、「やるべきだと思い込んでいること」をすべて捨て去ったとき、そこには何が残っているだろうか?
そのなかに自分のWant toが眠っている可能性は高い。