ボトムアップで成功事例を共有できる時代の到来
かつて世界中でビジネスを展開するグローバル企業の日本支店に所属していたころ、私は他の海外拠点のニーズに応える形で、輸出事業を立ち上げた経験があります。以前より日本で開発した製品を海外で販売したいというニーズはあったものの、部門間の調整が明らかに必要となりそうな課題であったため、業務分掌が明確に定義されていた縦割りの組織では、誰もそのニーズを拾うことはありませんでした。
ここぞとばかりに、私は他部署を巻き込んで事業を立ち上げることにしました。法務部門と連携して契約をまとめ、税務部門と連携して税務リスクがないことを確認しました。物流部門と連携して大黒ふ頭の倉庫を借り、外国語表記の成分表示シールをアルバイト社員と一緒になって製品に貼りました。そして経理部門と連携して決済が無事に完了したとき、新たな事業が立ち上がっていました。
日本支店の一社員が本来の業務とは関係のない輸出事業を立ち上げたい、と本社経営陣からトップダウンの指示を待っていたとしたら、実現は容易ではなかったと思います。
しかし、現場ニーズを捉えて、一個人でもできることから始めた結果、ボトムアップで国を超えた成功事例として経営全体で共有されました。今では日本で製造した製品を海外に輸出するだけにとどまらず、世界中で製品の開発ノウハウ自体を共有するにいたっています。