中学2年から株ひと筋で、株式投資歴30年以上のベテラン専業投資家、かぶ1000が『賢明なる個人投資家への道』を著した。中学時代から体育のジャージ姿で地元の証券会社に通い詰め、中高年の投資家にかわいがられ、バブル紳士にお金儲けのイロハを教えてもらった。中学3年生で300万円、高校1年で1000万円、高校2年生で1500万円へと株式資産を増やす。会計系の専門学校卒業後、証券会社の就職の誘いを断って専業投資家の道へ。2011年に“億り人”になると、2015年に3億円、2019年に4億円を突破。アルバイト経験さえない根っからの個人投資家が、学校では絶対に教えてくれないお金の知識と増やし方を徹底指南する。

デフレーションPhoto: Adobe Stock

日本経済がデフレに陥った3つの理由

経済活動における財とサービスの価格が上昇することを「インフレーション」(略してインフレ)といいます。

これは、物価上昇によりお金の相対的価値が下がることを意味します。

「インフレ=物価が上がる」ことだと理解している人が多いと思いますが、それは、お金の価値が下がることにより、物価が上がっているように見えるからです。

こう聞くと、ちょっと経済に詳しい人は、「いまの日本はインフレじゃなくて、デフレでしょう」と違和感を持つかもしれません。

たしかに、1991年のバブル崩壊以降は、長期におよぶバブル経済の後処理と、インフレとは真逆のデフレ(デフレーション)に苦しんだと考えられており、「失われた30年」とも呼ばれてきました。

では、いまの日本はデフレなのでしょうか、それともインフレなのでしょうか?

デフレとは、ものやサービスの価値に対して、お金の価値が上がり、ものの値段が下がることです。

デフレになると消費者は物価の下落を折り込み、消費を控えるためにものが売れなくなり、景気は悪くなります。

それにより企業の業績が悪化するため、賃金が下がったり、非正規雇用(パートタイマー・契約社員・派遣社員など)がリストラされたりするケースも出てきてしまいます。

すると、消費者は財布のひもをさらにきつく締めて、ものを買わなくなる悪循環に陥ります。

すると、さらにものの需要が減り、ものが売れなくなるため、企業はものの値段をもっと下げざるを得なくなります。

それが企業の業績悪化を招き、それによって物価が下落するデフレが、よりいっそう進んでしまいます。

これが、デフレが連鎖するという意味を込めた「デフレスパイラル」と呼ばれる悪循環です。

日本経済は、バブルの崩壊後しばらくたった1999年あたりから、デフレスパイラルに陥り、不景気が続きました。

では、バブル崩壊以降、日本経済はなぜデフレに陥ったのでしょうか?

その理由は大きく分けて3つあります。

日本経済がデフレに陥った1つ目の理由は、少子高齢化の影響です。

先進諸国は、多かれ少なかれ、少子高齢化の道を歩んでいますが、日本はそのトップランナーであり、ものすごいスピードで少子高齢化が進んでいます。

少子高齢化で人口が減少すると、ものを買う需要が減ります。

需要が減少すると、ものの値段が下がるデフレになりやすくなります。

デフレに陥った2つ目の理由は、賃金がなかなか上がらないことです。

賃金が上がらないと家計にゆとりがなくなり、消費を控えようとします。

財布のひもが固くなり、ひいてはデフレを進行させる要因になります。

日本で賃金が上がらない最大の理由は、「終身雇用」「年功序列」にあると私は思っています。

終身雇用も年功序列も崩壊したといわれますが、能力給が広がってきたとはいえ、従来と同じような雇用形態を維持している企業は少なくありません。

日本では法律で正社員の権利が守られており、一度正社員として雇うと、業績が悪化しても容易にリストラできません。

企業側は、潜在的なリストラ要員を抱えておける体力を養うために、正社員に対して低めの賃金を提示せざるを得ないのです。

正社員の賃金を抑えると同時に、企業は非正規雇用の割合も増やします。

非正規雇用の賃金は正社員よりもさらに低く、正社員よりリストラしやすいからです。

デフレに陥った3つ目の理由は、対外的に見て「円」という日本の通貨が強いことです。

外国為替の世界で「日本円」は安全資産であり、いざというときの資金の逃避先として、まだまだ高く評価されています。

その裏づけになっているのは、日本が持つ世界最大の「対外純資産」です。

対外純資産とは、日本の政府や企業が、海外で持っている「資産」から「負債」を引いたもの。

2020年末の対外純資産は356兆9700億円もあり、日本は30年連続で世界最大の対外純資産国の座をキープしています。

海外にこれだけ多くの資産を持っているため、日本円は安全資産とされ、資金の逃避先として評価されているのです。

外国の通貨に対して日本円が強い状態が「円高」です。

円高だと、物価が安い海外から原材料などを安く輸入できるので、自動車など輸出産業の調達コストが抑えられます。

需要が減り、価格を下げないと売れないデフレの状況を乗り越えるには、コストを抑えてものを製造しなくてはなりません。

円高を利用して海外から安いものを輸入すると、それだけ供給が増えます。

すると需要とのギャップがさらに広がり、ものの値段が下がるデフレスパイラルにつながります。

原材料費だけではありません。

企業は人件費をカットするため、製造業を中心に生産拠点を人件費が安いアジア諸国などに移します。

いわゆる「国内産業の空洞化」です。

よく知られているように、世界のアパレル業界で時価総額トップの座を争っているファーストリテイリング(9983)が運営するユニクロやGUの服は国内生産ではなく、中国を始めとするアジア諸国でつくられています。

企業が海外に生産拠点を移して国内産業の空洞化が進むと、国内の仕事が減りますから、余計に賃金は上がりにくくなります。

収入が減ると安いもののほうがよく売れるようになり、ますますデフレから抜け出せなくなるのです。