いま、住宅ローンの金利は史上最低の水準にまで下がっています。マイホームの購入や、すでに組んだ住宅ローンの見直しを考えている方は、「金利が史上最低」などと聞けば「いまがトクするチャンスでは?」と期待がふくらむかもしれません。しかし、住宅ローン金利の低下には、実は「良い面」だけでなく「悪い面」もあります。
累計11万部を超えるロングセラー『住宅ローンはこうして借りなさい』の改訂4版を上梓した深田晶恵さんが、今回から5回にわたって今こそ押さえておきたい住宅ローンのポイントを紹介します。

史上最低の住宅ローン金利でトクする人、ソンする人

 多額のお金を借りる場合、金利が低いというのは一見、トクのように思えます。たしかに金利が0.1%違うだけで「返す利息」が少なくなるわけですからおトクといえるでしょう。これは「良い面」です。しかし、この低金利には「悪い面」もあるのです。特に注意が必要なのは、これから新規に住宅ローンを組んでマイホームを買う人です。金利が低いと、毎月の返済額が少なくなるため、多額のローンを組むことができます。借り手にとって良いことに思えるかもしれませんが、「月々これくらいの額なら返せるだろう」と目先の負担感だけに気を取られ、つい「借りすぎ」になるリスクがひそんでいるのです。

深田晶恵(ふかた あきえ)ファイナンシャルプランナー(CFP)、(株)生活設計塾クルー取締役。1967年、北海道生まれ。外資系電機メーカーを退職後、96年にFPに転身。日本経済新聞、日経WOMAN、日経ビジネスAssocie等でマネーコラムを連載中。国土交通省「住宅ローン商品改善ワーキングチーム」および「消費者保護のための住宅ローンに係る情報提供検討会」、住宅金融普及協会「住宅ローンアドバイザー運営委員会」委員を歴任。こうした委員会で金融機関と不動産事業者に住宅ローンのリスクの説明を義務づけるガイドライン作りを提唱するのが目下のライフワーク。主な著書に『30代で知っておきたい「お金」の習慣』『「投資で失敗したくない」と思ったら、まず読む本』他多数。
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生活設計塾クルー
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 住宅ローンは多額の借金。この「借りすぎ」は、家計に時限爆弾を仕込むようなものといえます。60歳でいよいよ定年退職を迎える際に初めて「ローンが1000万円以上も残っている!」と気づくケースは少なくありませんが、その時はすでに“後の祭り”です。

 近頃は老後不安が広がっており、「退職金も公的年金もアテにならない」と嘆く声をよく耳にしますが、「老後が心配」といいながら、60歳以降も返済が続く多額のローンを組んでしまう人はとても多いのです。私は、これでは本末転倒だと思っています。「老後の安心」を求めるなら、まずは住宅ローンの組み方が退職後の生活に大きな影響を及ぼすことを知り、60歳までに返せるローンを組むことが大切です。

 一方、住宅ローンの借り換えを考えている人にとって、今の金利水準はローン見直しのビッグチャンス。「知らず知らずのうちに老後に爆弾を抱えていた」という人も、借り換え方しだいで大きく軌道修正が可能です。いま住宅ローンを見直せば老後の生活を安心なものにできるのですから、これは素直にローン金利低下の「良い面」と言っていいでしょう。

 ちなみに、これほどおトクな住宅ローンの見直しは、これがラストチャンスかもしれません。現在、住宅ローンの金利水準がこれほどまでに下がっているのは、景気低迷による低金利だけが理由ではありません。実は、銀行間で住宅ローン獲得競争が激しくなっていることも、大きく影響しています。「景気低迷」「銀行間の競争激化」といった住宅ローンを取り巻く環境に少しでも変化があれば、今ほどの低金利は二度と実現しないかもしれないのです。住宅ローンの見直しを検討している人は、先延ばしにせず、すぐに取り組みましょう。