『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てなどにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら
[質問]
大学4回生です。
フランス語学を専修しておりますが、興味を持てず困っています。卒論の書き方、テーマの決め方、てんで分かりません。必須の卒論を書いてどうにか卒業だけはしたい、その志だけはあります。
『独学大全』を読んだら、ヒントが掴めるでしょうか。
まず、先輩の卒論を探してください
[読書猿の回答]
あなたがどんな三年間を過ごし、どんなことができるようになっているのか、皆目分からないので本当はお答えのしようがありませんが、『独学大全』には、あなたよりひどい登場人物が出てきて、最後にはなんとか独学できるようになるので、あなたにも役に立ってしまうかもしれません。
しかしそれ以前の問題として、あなたは(少なくとも現状では)大学を卒業する資格がない人、つまり大学から見て卒業させてはならない人です。
大学がこれまで明示的に、あるいは暗黙裡に、提示してきた数多の機会を活かせずに、というよりも機会があったことにも気付かずに、卒論の書き方、テーマの決め方、専攻分野と自分の知的関心と間で折り合いをつける方法等など、何故4回生になった今でも見当がつかないのか、それがどういうことなのかも気付いておられない。
ついでに申し上げるなら、「必須の卒論を書いてどうにか卒業だけはしたい」というのは、志というより、単なるあなたの都合です。
さて、ほとんど何も手をつけておられないので、今からできることは限られています。
1.先輩の卒論がある場所を知る
まず自分の先輩たちが書いた卒論がどこにまとめられているかを探してください。ゼミ室やコース室、図書館などに保存されているか、大学によってはデータベース化されているかもしれません。大抵は最初に教えてもらえるはずです。
2.卒論のタイトルをリスト化する
そして先輩たちの卒論をできるかぎり集めてください。全文を集めるのも重要ですが(この先ずっと役立ちます)、各卒論のタイトルを拾い出してリストにまとめましょう。このリストは長いほどよいので、去年卒業した先輩たちだけでなく、何年もできるだけさかのぼって拾い出します。このリストがあなたの卒論のテーマを決める重要なツールになります。
3.卒論を読む
なるべく多く先輩たちの卒論を読みます。
タイトルリストを読み返し、気になったものから読むとよいでしょう。
この段階では数が欲しいので、「合わない」と思ったら別の卒論に移ってかまいません。目標は「お手本にしたい卒論」を三つ、「レベルはともかくテーマはちょっと気になった(関心を持てた)」と思うものを五つ、みつけることです。
4.内容ではなく「スタイル」を真似る
お手本にしたい卒論からはスタイルを、テーマが気になる卒論からはテーマの見つけ方を、真似します。
内容を真似ると剽窃ですが、よい論文のスタイルを真似ると、論文らしいものが書けます。大きくは構成、順序や部分ごとのボリューム、小さいものでは、接続詞や語尾の使い方など、参考になることは多いです。
テーマの見つけ方を真似るというのは、ちゃんとした卒論では、なぜこのテーマを選んだのかかきちんと書いてあるので参考になるからです。そこには、書き手がどんな関心をスタートにして、その関心を研究可能なものにどのように絞り込んでテーマを決めたのか、何をあきらめ、何を選び残したのか、などが書いてあります。
5.メモを取る
卒論のために何かを読むときには、先輩の卒論を読むときにも勿論、メモを取ることが必須です。すごいと思うところ、イマイチと思う箇所、良く出てくる用語や知らない言葉、引用されている論文や書籍のタイトルや著者名など、気付いたことは何でもメモします。このメモは、あなたの卒論の種になり、また種を育てる肥料にもなります。
6.卒論のテーマを決める
こうしていくと、いくつかのパターンで、自分の卒論のテーマが決まります。
一番ゴールに近いのは、先輩の卒論を読んで「これだったら、自分の方が良いものが書けるんじゃね?」となることです。多くは勘違いですが、少なくとも自分の卒論を書くことがスタートできます。
二番目は「この卒論良かったけど、もうちょっと、〇〇についても取り上げて欲しかった」となることです。だったら自分が〇〇を取り上げればよいわけです。
三番目は「この卒論の結論は〇〇だけど、そうじゃない場合もあるのでは?」となることです。そうじゃない場合どうなるのか、自分が何らかの結論を根拠立てて展開できるなら、卒論になります。
四番目は「この卒論のやり方は、自分が気になる〇〇でもやれるかも」となることです。アプローチは同じでも、対象が異なれば別の独立した卒論です。やり方がはっきりしているので、いきなりデータや資料集めといった作業にとりかかれます。
ここまでやるのに、二週間ですむか、何年もかかるかは、これまであなたが大学でどのように取り組んできたか、その三年間次第です。