出口治明が
哲学と宗教を語る理由
僕はいくつかの偶然が重なって、還暦でライフネット生命というベンチャー企業を開業しました。
個人がゼロから立ち上げた独立系の生命保険会社は戦後初めてのことでした。
そのときに一番深く考えたのは、そもそも人の生死に関わる生命保険とは何かという根源的な問題でした。
たどり着いた結論は「生命保険料を半分にして、安心して赤ちゃんを産み育てることができる社会を創りたい」というものでした。
そして、生命保険料を半分にするためには、インターネットを使うしかないということになり、世界初のインターネット生保が誕生したのです。
生命保険に関わる知見や技術的なノウハウなどではなく、人間の生死や種としての存続に関わる哲学的、宗教的な考察がむしろ役に立ったのです。
古希を迎えた僕は、また不思議なことにいくつかの偶然が重なって、日本では初の学長国際公募により推挙されてAPU(立命館アジア太平洋大学)の学長に就任しました。
APUは学生6000名のうち、半数が92の国や地域からきている留学生で、いわば「若者の国連」であり「小さな地球」のような場所です。
もちろん、宗教もさまざまです。APUで仕事をしていると、世界の多様性(ダイバーシティ)を身に沁みて感じます。
生まれ育った社会環境が人の意識を形づくるという意味で、クロード・レヴィ=ストロースの考えたことが本当によくわかります。
振り返ってみれば、僕は人生の節目節目において哲学や宗教に関わる知見にずいぶんと助けられてきた感じがします。
そうであれば、哲学や宗教の大きな流れを理解することは、間違いなくビジネスに役立つと思うのです。
神という概念が生まれたのは、約1万2000年前のドメスティケーションの時代(狩猟・採集社会から定住農耕・牧畜社会への転換)だと考えられています。
それ以来、人間の脳の進化はないようです。
そしてBC1000年前後にはペルシャの地に最古の宗教家ゾロアスターが生まれ、BC624年頃にはギリシャの地に最古の哲学者タレスが生まれました。
それから2500年を超える長い年月の間に数多の宗教家や哲学者が登場しました。
本書では、可能な限りそれらの宗教家や哲学者の肖像を載せるように努めました。
それは彼らの肖像を通して、それぞれの時代環境の中で彼らがどのように思い悩み、どのように生きぬいたかを読者の皆さんに感じ取ってほしいと考えたからに他なりません。
ソクラテスもプラトンもデカルトも、ブッダや孔子も皆さんの隣人なのです。
同じように血の通った人間なのです。
本書には、巻頭・巻末に見開きカラージャバラがついています。
ぜひ、彼らの生き様を皆さんのビジネスに活かしてほしいと思います。
哲学者、宗教家が熱く生きた3000年を出没年つき系図で紹介しました。
僕は系図が大好きなので、「対立」「友人」などの人間関係マップも盛り込んでみたのでぜひご覧いただけたらと思います。
次回は、哲学とは? 宗教とは? について見ていきましょう。
(本原稿は、11万部突破のロングセラー、出口治明著『哲学と宗教全史』からの抜粋です)