「アウトドアを通じて日本社会に貢献したい」
きっかけは1人のカナダ人の想い

――非常にユニークな取り組みですが、どのような経緯でこうした活動が始まったのでしょうか?

 みらいの森はもともと、共同設立者であるジェフ・ジェンセン(Jeff Jensen)の想いからスタートしています。

ジェフ氏写真提供:みらいの森

 ジェフはカナダの、アウトドアの盛んなカナディアンロッキーの町、バンフで生まれ育ったといいます。当時、バンフには多くの日本人観光客が来ていて、日本語ができれば、日本人を対象としたアウトドアガイドとして仕事ができると考え、ワーキングホリデーで日本へ語学留学しました。

 その際、日本中を旅し、日本の自然に触れる中で、日本で働こうと考え始めます。東京都の奥多摩でラフティング会社を設立したり、埼玉県でボルダリングジムを始めたりと、アウトドア関連で多岐にわたり活動し、今はアウトドア用品の卸売りや販売、イベントなど行う会社の取締役をしています。

 彼の母は、実の親から虐待を受けたために、親から引き離され、養子に入りました。ただ、その育ての親もまた暴力を振るう人で、18歳になり独立するまで、ずっと耐えて生きてきたようです。周囲のサポートも経済的なバックグラウンドもない中で苦労してジェフたち兄弟を育て、そのかたわら、高齢者をサポートするボランティア活動にも熱心だったといいます。

 そのような母を見ていたために、いつからか、自身の得意なアウトドアを通じて日本社会に貢献したいと考えるようになり、仕事と並行して情熱を注ぐようになったことが、児童養護施設の子どもたちに自然体験を通じて「生きる力」を身につけてもらう活動です。2011年に活動を開始し、2013年にNPO法人化しました。

 私の母も、自閉症や発達障害の子どもたちをサポートするNPOに20年以上勤務していて、その姿を子どもの頃から見てきました。

 そのため、私もいつか社会に役立てるような、やりがいのある仕事に就きたいと思っていたところ、大学時代にみらいの森の存在を知ってインターンシップに参加し、現在にいたっています。今は数多くのボランティアさんに支えていただきながら活動を続けています。

 私たちの強みは、施設や行政に属さない団体という点です。児童養護施設の子どもたちだけを対象に専門的なプログラムを企画しているため、目的に沿ったカリキュラムを作り出し改善していくことに集中できます。専門的知識と経験から、活動中の安全対策も徹底しています。

みらいの森写真提供:みらいの森

――活動資金はどうしているのですか?

 私たちの活動はすべて、企業や一般の方からの寄付でまかなっています。施設側の金銭的な負担はないので、施設側で新たに予算を組んでもらう必要はありません。私たちのミッションに共感してくださっている多くの方々にご支援をいただいていますが、今後も継続して子どもたちの居場所となれるよう、安定した資金調達というのはつねに課題です。

――今後、新たに取り組みたいことは何かありますか?

 今はスタッフの数も限られているので手いっぱいですが、もっとこうしたアウトドアプログラムを実施する回数を増やしていきたいですね。今はコロナ禍でなかなか思うように活動できませんが、コロナ禍が始まる前は、参加希望者数が定員を超えるぐらいに成長してきていたので、コロナ禍が落ち着いたらもう少しスケールアップできればと思っています。

 そしてこれは夢でもあるのですが、いつか、自分たちの活動の拠点となるキャンプ場を持ちたいです。今はその都度、場所をお借りしながら活動していますが、時期や時間に縛られず、子どもたちが伸び伸びと過ごすことができ、卒業生も気軽に帰ってこられるような居場所をつくれればと思っています。親になった卒業生が、「子どもの頃よく来ていたよ」なんて会話をしながら自分の子どもと一緒に訪れる、そのような光景を見られるといいですね。