「生きる力」を備えておけば
自信を持って毎日を暮らせる

雪写真提供:みらいの森

 今まで経験したことのない問題や状況に直面しても、誰にも頼ることができなかったり、内に閉じこもってしまったりと、社会に適応することが難しく、結果的に生活に困窮するケースもあります。

 問題が起きたときに一緒に対応する、起こりうる問題すべての解決方法を事前に伝えておく、といったことを、自立していく子ども全員に対して行うことは不可能です。

 でも、自ら考え、解決に向けて行動し、たとえ見たことや聞いたことのない問題に直面しても困難を乗り越える「生きる力」を備えておけば、自立したときに自信を持って暮らすことができ、幸せな毎日につながるはずです。

 WHO(世界保健機関)やUNICEF(国際連合児童基金)をはじめ、国際的に「ライフスキル」の必要性が重視されています。たとえばWHOは「ライフスキル」を「日常生活で生じるさまざまな問題や要求に対して、建設的かつ効果的に対処するために必要な能力」(WHO「Life Skills Education in School」)と定義しています。

 また、UNICEFは具体的なライフスキルの例として、情報を分析して意思決定や問題解決へ活用するための「認識能力」、主観的に自分自身を認識して管理する「自己認識と自己管理」、他者とコミュニケーションを取り効果的に交流するための「対人関係能力」を挙げています。

 こうした「ライフスキル」の定義や具体例は、私たちが考えている「生きる力」と多くの部分で合致します。この生きる力をアウトドアを通じて身につけてもらうことが、私たちの活動の最大の目的です。

――なぜアウトドアなのでしょうか?

 テント泊、ハイキング、木こり体験、野外調理、ラフティング(川下り)など、自然という非日常かつ差別や偏見のない環境は、子どもたちに自分のことは自分で責任を持つことや、自分で考えて行動する力を育みます。

 また、施設の子どもたちの将来就きたい職業として、「施設の職員」や「保育士」がよく挙げられます。この選択肢は決して悪いことではないのですが、世の中のさまざまな職業の人に触れ、視野を広く持つ機会が限られているのではないかと感じる部分も少なからずあります。

キャンプ写真提供:みらいの森

 そのため、アウトドアで一緒に参加するさまざまなバックグラウンドを持つ大人たちと交流することにより、自分の将来の職業やライフスタイルの選択肢に気付き、可能性を広げてもらいたいと考えています。

 キャンプでは、子どもたちが施設で見せたことのない、同伴してくださっている施設の職員さんも驚くような面を見せてくれることがあります。

 施設ではあまりお手伝いをしなかった子がキッチンで率先してお手伝いをしたり、人と話すことが苦手だった子が人前で大きな声で発表できたり、好き嫌いが多くいつも食べ物を残していた子が完食したり、体力に自信のない子が8キロのハイキングを楽しそうに歩いたりと、普段決してやらなかったや、やれなかったことがキャンプでできてしまうことがあります。私たちはこれを「キャンプマジック」と呼んでいます。

 もちろん、ただキャンプやアクティビティをするわけではありません。特に高校生に対しては、プロジェクト・マネジメントやパブリック・スピーキングといった「自立」に焦点を当てたプログラムをアウトドアに組み込み、体験を通して自立に必要な知識、技術、物事の見方や考え方を学んでいきます。

 使用言語は基本的には日本語ですが、キャンプイングリッシュという形で、あいさつなど何度も使うフレーズは英語を散りばめています。英語を習得することが目的ではなく、世界に存在する多様な考え方に触れ、日常の「常識」とは少し異なる相手と交流することで表現方法の枠が広がり、コミュニケーション力が高まります。

 これまで述べ1800人以上の子どもたちにこうした体験を提供してきました。それには当然ながら私たちの力だけではなく、共感し、快く子どもたちを送り出してくださっている児童養護施設の職員さんや、ボランティアやスポンサーのかたがたのご協力の下で活動が成り立っています。