人はたった「15秒未満」でレッテルを貼る

 人がそうした認識をもつのに、それほど時間はかからない。そしてあっさりと、そうした認識に基づいて人にレッテルを貼るようになる。心理学者のナリニ・アンバディとロバート・ローゼンタールは、たとえ15秒未満の「薄切り」の出会いであろうと、人は相手の性格について強い認識をもつことをあきらかにした

 相手がどのくらいやさしく、正直で、信頼の置ける人かを、あっという間に推測するのだ。相手に対して特定の認識をもち、レッテルを貼る行為は、すばやくおこなわれる。さらに重要なことに、その正反対の証拠を目の当たりにしても、いったん決めつけた認識を変えようとはしない

 だから、いったんあなたになんらかのレッテルを貼った人間は、そのレッテルに基づいてあなたとの交流の仕方も、あなたという人間の評価をも変えてしまう。その結果、あなたにふさわしい報酬の金額まで変えてしまうのだ。

 現代ではソーシャルスキル、すなわち「人と交流する能力」がいまだかつてなく求められていて、その能力なしでは成功できない。協調力、交渉力、説得力があり、相手の心情を思いやる洞察力にすぐれている人間ほど高い評価を受けるのだ。

 ところが、こうしたタイプの能力ほど、偏見に基づいて評価されやすい。だが同時に、こうした能力を発揮すれば、エッジをつくり、本来は不利である形勢を逆転させる絶好の機会が生まれる。自分のことを「こう見てもらいたい」と思っている方向に、相手の認識を誘導するチャンスができるからだ。

逆風を追い風に変える

 あなたに対する他人の認識を、あなたのほうから誘導しよう。そして、独自の特権をつくりだそう。あなたのがんばりを最大限に活かすにはそれしかない。投資のアドバイスをする人が「おカネにおカネを稼いでもらいましょう」と言うように、あなたのがんばりを最大限に有効活用するのだ。心理学者のシャイ・ダヴィダイとトーマス・ギロヴィッチは、これを「逆風」と「追い風」と表現している。

 まず、あなたはがんばって努力しなければならない。それは必須だ。そのうえでエッジをつくりだせば、あなたは追い風を起こし、これまでの努力を実らせ、もっと前進できるようになる。

 その反対に、逆風が吹けば偏見にさらされ、不利な立場に後退させられる。そうなれば、前進するのは難しくなる。なんとか目的地にはたどり着けるかもしれないが、おそろしく時間がかかるだろうし、多大な苦労も伴うだろう。たどり着いたときにはもうクタクタで、不満が爆発しそうになっているかもしれない。

 だから、自分で追い風を起こそう。あなたのがんばりを最大限に有効活用しよう。逆風を追い風に変えよう。みずから行動を起こす力を身につけるのだ―自分ではなにもせず、ただ人任せにして、「おまえには努力が足りない」などと、他人に決めさせてはならない。

 これまで言われてきたアドバイスとは違うし、そもそも誠実さに欠けると思う方もいるかもしれない。とくに努力こそが大切で、それが唯一無二だと思い込んでいる場合は。でもそれは実のところ、あなたが用心しなければならないことの裏返しなのだ。つまり、なんとしても避けるべきなのは、他人に自分の運命を決めさせること

 乏しい情報に基づいて、あなたという人間についていい加減な判断をさせてはならない。そのためには、「私はこういう人間です」と、自分から告げなければならない。すべてを人任せにしたあげく、「自分のことをちゃんとわかってくれるはず」と期待するのは、運を天に任せるようなものだ。相手があなたのことをどう認識し、あなたにどんなレッテルを貼るかもわからないのに、自分の成功を他人にゆだねるのだから。

 たしかに、あなたは努力しなければならない。でも、その努力にどれほどの価値があるのかを世間に示すのは、あなたの仕事だ。手元に配られたカードを変えることはできない。でも、その手持ちのカードで勝負するのはあなただ。カードを配られたあと、「おまえのカードは弱いな」などと、他人にけっして言わせてはならない。

 自分にはどこにもやましいところなどない。そう覚悟を決め、他人の決めつけは捨てて、新しい信条をとりいれよう。成功をおさめた人は、どんな境遇から這いあがったにせよ、どれほど不利な状況に追い込まれたにせよ、だれもが必ずこう信じていた。

「未来はいまよりよくできるし、私にはそうするだけの力がある」、と。

(本原稿は『ハーバードの人の心をつかむ力』〔ローラ・ファン著、栗木さつき訳〕から抜粋、編集したものです)