京都の伝統工芸・西陣織のテキスタイルがディオール、シャネル、エルメス、カルティエなど世界の一流ブランドの内装などに使われているのをご存じでしょうか。日本の伝統工芸の殻を破り、いち早く海外マーケット開拓に成功した先駆者。それが西陣織の老舗「細尾」12代目経営者の細尾真孝氏です。ハーバードのケーススタディーとしても取り上げられるなど、いま世界から注目を集めている異色経営者、細尾氏の初の著書『日本の美意識で世界初に挑む』(ダイヤモンド社)が出版されました。本連載の特別編、デザイナー太刀川英輔氏との対談の3回目をお届けします。太刀川氏はデザイン事務所、NOSIGNER株式会社の代表であり、山本七平賞を受賞した話題の書『進化思考』(海士の風、2021年)の著者。そんなお2人が、美意識と工芸、デザインの持つ可能性について語り尽くします。好評のバックナンバーはこちらからどうぞ(構成/北野啓太郎、撮影/石郷友仁)。

新しい発想やアイデアがほしいとき、試してほしい効果的な方法Photo: Adobe Stock

「先祖の力を借りる」は、即効で役に立つ

【質問】「アイデアを得たい、創造性を高めたい」と思っているダイヤモンド・オンラインの読者の方も多いと思います。「よし、自分も今日から試してみよう」と思ってもらえるような、何か具体的なアクションがあれば教えてください。

細尾真孝(以下、細尾) やっぱりひとつは、「過去をリサーチしていく」というアプローチですね。どんな仕事であっても、それぞれの仕事には歴史がありますので、そこを辿ってみることは有効だと思います。

 辿っていく中で、今、社会で常識だとされていることが、実は昔は違っていた……ということがいくつかあることに気づくはずです。たとえば着物業界では、「この時期には単衣(ひとえ:裏地のない着物)を着なさい」などのルールが明確に決まっているんですね。でも、それが決まったのは、実はこの数十年の話なのです。さらに紐解いていくと、より多く着物を着てもらえるよう呉服屋さんがプロデュースしていた過去の思惑もわかる。お菓子メーカーが仕掛けるバレンタインデーのようなものですね。

 あらゆることにはルーツがあって今があるので、そのルーツを辿ってみる。それを踏まえて「次の常識は、どうあればもっと良くなるだろうか」というところを考えてみると良いと思います。

太刀川英輔(以下、太刀川) まさにそうですね。『進化思考』では、「系統の探求」ということでまとめているのですが、あらゆるものが進化図の先端に置かれているとした場合、その前のものがあるということです。企業で言ったら、創業から現在までみたいなことですし、産業で言ったら、その分野が出てきてから現在までということ。そういうことを探求すると何が起こるかというと、現在の常識からみて成功しているとか、良いというものが、客体化されるんです。

細尾 そうですね。

太刀川 当たり前ですけど、現在の皆さんの上司よりも、創業者のほうが偉いし、その創業者よりも、その産業を始めた人の方が偉いんです。そういうことを知っていれば、自分が何かを主張しようとしたとき、持論が補強されるわけですね。科学の用語で言うと、「巨人の肩に乗る」というんですけど、僕もデザイナーとして仕事ができる人って、歴史にすごく詳しいなと感じます。これは偶然ではなくて、歴史の中における自分を客体化できているからだと思います。要するに「先祖の力を借りましょう」みたいなのは、即効で役に立つんです。

細尾 いいですね。

太刀川 たとえば、今パナソニックさん向けに『進化思考』の映像教材をつくって皆さんで学んでくれているのですが、ここに松下幸之助さんの名言も加えて説明しています。松下幸之助さんも同じことを言っていますからね、と。

 前々回に「伝統を守るべきところと、変えて良いところ」といった話をしましたけど、それを知るためにもルーツを辿るというのは、すごく明確な戦略なんです。大切なものは守られるし、変えていく勇気、新しいものを生み出す勇気が得られるからです。