島口大樹さんの『オン・ザ・プラネット』

映画を撮ろうと車で鳥取砂丘を目指す若者4人組。彼らはこれから撮影する映画の脚本の読み合わせをしながら、不可解な記憶や過去のトラウマを語り、“世界線”の認識について議論します。日本でも話題になったマルクス・ガブリエルの哲学書『なぜ世界は存在しないのか』などを引き合いに出しながら会話は展開します。

しかし、そこは私たちの思考と同じように脱線したり、突如として話題が変わったりしながら、うねうねと進んでいきます。登場人物たちは鳥取にある映画の撮影場所を目指しながら、それぞれの記憶も旅をするという複線的なロード・ムービーになっています。最近よく使われる言葉である“世界線”という概念との関連性も感じさせます。

どの作品も「社会」と「個人」の実相を切り取って作品化しています。

約90年間、アクチュアルであり続けた芥川賞の凄み

このように芥川賞は脂が乗った新人の純文学作品を、長年純文学を書いてきたベテランの作家たちが選考することによって、受賞作はつねにアクチュアルな話題を提供します。しかも、それが1935年から、終戦前後の中断は挟んでいるものの、実に90年近くずっとつづいています。

文学的に尖った「新人」の作品が芥川賞に選ばれることによって、何万、ときには何十万もの人が手にとって読む。これはとても豊かな文化ではないかと、わたしは思っています。

ミリオンセラーを超えた作品も数多くあり、最近でも推し活とネット炎上をテーマにした宇佐見りんさんの『推し、燃ゆ』が52万部となっています。

そして今日、芥川賞の歴史に、また新たな1ページが加わります。