ジェフ・ベゾス自身の言葉による初めての本『Invent & Wander』が刊行された。100万部ベストセラー『スティーブ・ジョブズ』などで知られるウォルター・アイザックソンが序文を書き、翻訳も100万部超『FACTFULNESS』などの関美和氏が務める大型話題作だ。
その内容は、PART1が、ベゾスが1997年以来、毎年株主に綴ってきた手紙で、PART2が、「人生と仕事」について語ったものである。GAFAのトップが、自身の経営についてここまで言葉を尽くして語ったものは二度と出てこないのではないか。
サイトとしてだけでなく、キンドル、プライム・ビデオ、AWSなど、多くの人が「アマゾンのない生活など考えられない」というほどのヒットサービスを次々と生み出し、わずか20年少しで世界のあり方を大きく変えたベゾスの考え方、行動原則とは? 話題の『Invent & Wander』から、内容の一部を特別公開する。
「ワークライフバランス」という言葉への違和感
私はアマゾンでトップに立つ経営層向けに、リーダーシップの授業を行っている。インターンにも話をする。誰と話してもしょっちゅう質問されるのが、ワークライフバランスについてだ。
「ワークライフバランス」という言葉はあまり好きではない。少し違和感を覚えるのだ。「ワークライフハーモニー」のほうがいい。職場で元気になれて、仕事が楽しく、自分がチームの一員として役に立っていると感じられたら、家でもいい人間になれるはずだ。夫としても父親としても、もっとよくなれる。家が楽しければ、社員としても上司としても、よくなれる。
長い時間、激務続きでヘトヘトになることもあるかもしれない。だが、問題は長時間、仕事に縛りつけられることではない。たいていは活力の問題だ。仕事で活力が奪われているだろうか? それとも仕事で活力が湧いてくるだろうか?
どちらのタイプも見たことがあるはずだ。会議に誰かが入ってきた場面を考えてみよう。その会議に活力を与えてくれるような人がいる。逆に、会議をドッと萎ませてしまうような人もいる。そんな人は会議から活力を奪っているのだ。どちらのタイプになるかはあなた次第だ。家庭でも同じ。
ワークとライフはバランスを取るものではなく、ぐるぐると環のように巡るもの、つまり循環だ。ワークライフバランスという言葉は、ワークとライフがそもそも両立しにくいような印象を与えるので、とても危険だ。失業して家族と四六時中一緒に過ごせるようになっても、仕事がないために落ち込んでふさぎこんでいたら、家族も近寄りにくくなってしまう。どこか旅行にでもいってくれたほうがマシだと思われるかもしれない。
問題は労働時間ではない。もちろん、どんなに長く働いてもいいとは思わないが、たとえば私は週100時間浮かされたように働いても問題はない。それは家庭からも仕事からも元気をもらっているからだ。インターンにも、重役たちにも、ワークライフハーモニーを勧めている。
(本原稿はジェフ・ベゾス『Invent & Wander』からの抜粋です)
アマゾン創業者、元CEO。宇宙飛行のコスト削減と安全性向上に取り組む宇宙開発企業、ブルーオリジン創業者。ワシントン・ポスト社オーナー。2018年、ホームレスの家族を支援する非営利団体の支援や、低所得地域の優良な幼稚園のネットワーク構築に注力するベゾス・デイワン基金を設立。1986年、プリンストン大学を電気工学とコンピューターサイエンスでサマ・カム・ラウディ(最優秀)、ファイ・ベータ・カッパ(全米優等学生友愛会)メンバーとして卒業、1999年、タイム誌「パーソン・オブ・ザ・イヤー」選出。『Invent & Wander──ジェフ・ベゾス Collected Writings』を刊行。