新型コロナの感染状況が悪化する中、リモートワークの必要性が高まっているが、リモートワークでは仕事の効率が上がらないという声も多い。「生産性が上がらない」「人間関係がうまくいかない」といった組織の問題を、心理学、脳科学、集団力学など世界最先端の研究で解き明かした『武器としての組織心理学』を紹介しよう。著者は、立命館大学の山浦一保教授。「妬み」「温度差」「不満」「権力」「不信感」といった組織に蔓延するネガティブな感情を掘り下げながら、効果的なリーダシップをひもとく画期的な1冊だ。本稿では、特別に本書から一部を抜粋・編集して紹介する。

武器としての組織心理学Photo:Adobe Stock

 リモートワークの普及で、個人の働きやすさが高まる一方で、人間同士の物理的な距離が広がり、以前よりもコミュニケーションが難しくなったと感じている人も多いでしょう。

 特に、リーダーやマネジャーの立場にある人にとって、離れた距離で働くチームで成果をあげるために、どのようにリーダーシップをとっていくかが試される時代です。

「4つタイプのリーダーシップ像」ーーPM理論による分類

 物理的に離れたメンバーに対するリーダシップについて、あるバス会社の示すデータが示唆に富んでいます。[1]

 これは、PM理論で有名な三隅とその研究チームが、バスの事故率を低減させるためにPMリーダーシップのトレーニングを行ったときのデータです。

 このデータの話をする前に、少しだけPM理論について説明します。このPM理論では、リーダーシップを2軸で評価します。[2]

PM理論三隅(1984)を基に作成

 一つは、目標達成のために直接的に必要な課題志向の言動、いわゆるP(Performance)行動です。この行動には、例えば、明確な計画や指示の提示、臨機応変な処置、新しい技術や知識の教示、ルール遵守の厳格さなどに関する言動が含まれます。

 もう一つは、M(Maintenance)行動です。集団の雰囲気を維持すること、部下に対する配慮、能力や仕事ぶりを認めてそれを伝える言動、公平な対応などが含まれます。

 そして、それぞれの評価得点の高低を組み合わせて、リーダーシップを4つのスタイル(PM型、Pm型、pM型、pm型)に分類します。

 この理論のポイントは、部下による評価(とくに上司による自己評価と部下による評価のギャップ)にあります。

「上司が伝えたつもりである(伝えたい)」こと、すなわち上司の自己評価の高さだけでなく、その「伝えたつもり」のことが部下たちに「伝わっている」かどうかという点が鍵を握ります。

 もし、伝わっているならば、上司に対する部下の評価得点は高くなります。

 例えば、PM型のリーダーシップと評価されるのは、上司がとるP行動もM行動も、部下に十分「伝わっている」状態ということです。

 逆に、pm型のリーダーシップと評価された上司は、日ごろ控えめであるのか、あるいはほとんど現場に関与していないのか、いずれにしても、部下にリーダーの想いが届いていない状態にあるということです。

 部下に「伝わっている」PM型のスタイルは、他のスタイルであるPm型、pM型、pm型の3つのいずれよりも、生産性は高く、部下のモラール(士気)や精神衛生、職場の状態(雰囲気、ミーティングの円滑さや業績規範など)も高い水準にあることが一貫して認められています。

バス会社で行われたリーダーシップのトレーニング

 さて、バス会社の話に戻りたいと思います。時は高度成長期、街の中では車が忙しく走り回るようになり、それに伴ってこのバス会社では有責事故率がどんどん高まっている状態に陥っていました。

 そこで、リーダーがPM型になることを目指してトレーニングが行われたのです。

 そのトレーニング介入が行われた後、上司たちのリーダーシップ発揮の状態はそれぞれ向上していきました。

 それに伴って、会社全体の事故率は見事に低下し、とりわけPM型の上司のもとでは事故率が顕著に低くなったのです。

 さらに、ここで注目すべきおもしろい点は、バスの運転士の日常の業務内容(「運転」という仕事)から見えてきます。

離れていても、部下は上司のリーダーシップに影響を受ける

 部下の運転士が上司とかかわるのは、業務前(および業務後)の短時間の点呼程度です。

 運転士は、勤務時間のほぼすべてを上司と物理的に離れて仕事をしているにもかかわらず、その職務遂行状態は、上司のリーダーシップ・スタイルの影響を受けていたのです。

 この現場の取り組みとデータが私たちに教えてくれていることは、「関係性の構築と維持」がリーダーの活動の基盤だということです。

 物理的に遠ざかっても、PM型の上司のもとで働く部下たちはお互いに結びつき、想いを共有し、自分の立場でできることをするように努める可能性が高いということです。

 このことを踏まえると、現在のように働き方が大きく変化している時代でも、職場を団結して組織のパフォーマンスを上げることも決して不可能ではありません。

 リーダーの、あるいは私たち一人ひとりのリーダーシップ(影響力)とは、このように、良くも悪くも思った以上に大きなものなのです。(関連記事:生産性が高いのは「リモートワークか?それとも出社か?」

脚注:
[1]株式会社原子力安全システム研究所(編)・三隅(監修)(2001). 『リーダーシップと安全の科学』 ナカニシヤ出版.
[2]三隅二不二 (1984). 『リーダーシップ行動の科学』 有斐閣.

(本稿は、『武器としての組織心理学』から抜粋・編集したものです。)