ギリギリまで我慢すると回復が困難に

わび:自衛隊にいたとき、組織のメンタルケアを担う心理担当の幹部から教わったことですが、しんどいときに弱音を吐かない人ほど急に折れて、逆に弱音を吐く人ほど、困難な状況を乗り越えられるらしいです。私は明らかに「弱音を吐かない」タイプでした。

バク:おっしゃる通りですね。「適応障害」になりやすいのって、やっぱり真面目な人なんですよ。

「適応障害」は、特定の状況や出来事によって、気持ちが落ち込んだり、行動の面でも症状が出たりする心の病です。

 ブラック企業で激務が続いている、上司から暴言を吐かれる、学校でいじめられているなど、ストレスの原因がはっきりしていることが特徴の病気なんですが、そのせいで日常生活に支障が出るほど落ち込んでしまうと「適応障害」と診断される可能性が高いんですね。

 どんなに相手からひどいことを言われても、「ああ、その通りかもしれない」「自分が悪いんだ」と真に受けすぎてしまい、自分が限界であることに気がつかない。

わび:自衛隊にいるときの私がまさにそうでした。弱音を吐かないことを美徳と考え、残業やパワハラにも弱音を吐かず、大丈夫なふりをし続けていましたね。

──強く見える人でも、適応障害になってしまうことはあるのでしょうか?

バク:もちろんあります。適応障害は、誰でもなる可能性がある病気です。「あの人は何をやっても強いよね」と言われるような人でも、やっぱり折れるときは折れますよ。何がきっかけで適応障害になるかは本当にわからないんです。

 わびさんの場合、きっと本人が気がついていないうちにストレスが限界までたまっていたんでしょうね。心の中にストレスがたまるコップみたいなものがあるとしたら、表面張力でギリギリ保っているような、もういつあふれるかわからない状態が続いていた。それが、ある日職場で一気にあふれてしまい、発症した。こういうこと、実はよくあるんですよ。

 そういう、メンタルが強く見える人……あるいは「自分はメンタルが強い」と思い込んでいる人が急に折れてしまった場合、回復に時間がかかる可能性も高いんです。

 わびさんも、もっと早くに環境を変えられていれば、リカバリーにそこまで時間はかからなかったかもしれませんね。

わび:今振り返っても、あのときは思考がおかしくなっていたと思います。

 病院に運ばれたとき、職場のデスクの下に潜り込んで叫び声を上げていたらしいのですが、私には記憶がまったくないんですよね。

 それで、休職期間もずっと上司の声が頭の中に響いていて、そのたびに薬を飲んで。そんな自分があまりに情けなくて、本気で自殺をしようと考えたこともありました。

 結局、メンタルダウンするより前くらいに戻るまで、たぶん1年以上はかかりました。

 私も今だからこそ、「一線を越えたら撃ちますよ、という気概を持て」みたいなことを言えるんですが、渦中にいるときはまったくそうは思えなかった。

 今回の本も、7年前、パワハラで苦しんでいたときの自分のように、「今の状況がおかしいことにすら気がつけないほど、すごくきつい状況にいる人」に読んでほしいと思いながら書きました。