アトピーになる原因

 また、経皮感作することで引き起こされるのは、食物アレルギーだけではない。アトピー性皮膚炎も、経皮感作が発症に関わっていると考えられるようになっている。皮膚を健康に保ち、バリア機能を維持することで、アトピー性皮膚炎の発症を抑えることができるというエビデンスが出てきているのである。

 例えば、堀向健太氏らが行った研究[*5]では、アトピー性皮膚炎の発症リスクが高い新生児118人を、1日1回全身に保湿剤(商品名2e[ドゥーエ])を塗布するグループと、乾燥した部分のみにワセリンを塗るグループに無作為に割り付けた実験を実施した。その結果、保湿剤の全身塗布によってアトピー性皮膚炎の発症率が低下することが示された(図4)。

アレルギーになる原因は「皮膚」にある?最新研究が明かす真実

 この研究の追試ともいえる研究[*6]が、2020年に発表されたBEEP(Barrier Enhancement for Eczema Prevention)研究と呼ばれるものである。英国で行われたハイリスクな新生児1394人を対象としたこの研究の結果、新生児期に保湿剤を積極的に利用したグループと、標準的なスキンケアをしたグループで、2歳時点でのアトピー性皮膚炎の発症率に統計的に有意な差を認めなかった。

 しかしこの研究ではいくつかの限界点も指摘されている[*7]。前述の日本の研究では保湿成分が含まれる保湿剤が使われたのに対して、BEEP研究ではエモリエントと呼ばれる保湿成分の含まれない保湿剤が使われたという違いがあった。

 その他にも、標準的なスキンケアをしたグループもそれなりにきちんと保湿していたことで、差が見られなくなったなどの可能性も考えられている。保湿がアトピー性皮膚炎の予防に本当に有効かに関しては今後の研究が待たれるところであるが、子どもの皮膚をしっかり保湿することに対するデメリットはないので、ぜひしっかり保湿してあげてほしいと筆者は考えている。

 また、このような経皮感作は子どもだけでなく、大人でも起こる可能性がある。

 日本では、化粧品会社「悠香」(福岡県)が製造販売する「茶のしずく石鹸」を使用していた人が、小麦に対する食物アレルギーを発症した事件が有名である。合計2111人が食物アレルギーを発症し、25%がアナフィラキシーショック、43%が呼吸困難を経験するなど重篤例も多く含まれていた。[*8]

 この石鹸には、加水分解された小麦のたんぱく質である「加水分解コムギ」(グルパール19S)が含まれており、繰り返し石鹸を使うことで経皮感作を引き起こし、結果として小麦に対する食物アレルギーになってしまったと考えられている。

 アレルギー予防の観点からみると、皮膚に湿疹や傷があるなどバリア機能が失われている状態で異物に触れることは、極力避けたほうが良いと言える。

 またバリア機能を保つためにも、日ごろから保湿などのケアはしっかりしてほしい。また皮膚に異常が場合はインターネットや本で自分で調べるのではなく、ぜひ皮膚科の先生に相談してほしい。

参考文献
*1 Motosue MS et al. National trends in emergency department visits and hospitalizations for food-induced anaphylaxis in US children. Pediatr Allergy Immunol. 2018;29(5):538-544.
*2 Lieberman J et al. Increased incidence and prevalence of peanut allergy in children and adolescents in the United States. Annals of Allergy, Asthma & Immunology. 2018;121(5):S13.
*3 Lack G et al. Factors associated with the development of peanut allergy in childhood. N Engl J Med. 2003;348(11):977-985.
*4 Yoshida K et al. Distinct behavior of human Langerhans cells and inflammatory dendritic epidermal cells at tight junctions in patients with atopic dermatitis. J Allergy Clin Immunol. 2014;134(4):856-864.
*5 Horimukai K et al. Application of moisturizer to neonates prevents development of atopic dermatitis. J Allergy Clin Immunol. 2014;134(4):824-830. e6.
*6 Chalmers JR et al. Daily emollient during infancy for prevention of eczema: the BEEP randomised controlled trial. Lancet. 2020; 395(10228):962-972.
*7 小児アレルギー科医の備忘録[https://pediatric-allergy.com/2020/03/09/beep/]を参照。(2020年7月20日アクセス)
*8 Yagami A et al. Outbreak of immediate-type hydrolyzed wheat protein allergy due to a facial soap in Japan. J Allergy Clin Immunol. 2017;140(3):879-881. e7.
著者略歴
津川友介(つがわ・ゆうすけ)
医師・カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)准教授。
東北大学医学部を卒業後、ハーバード大学で修士号、博士号を取得。聖路加国際病院、世界銀行、ハーバード大学勤務を経て、2017年から現職。
2016年に発表した女性医師の治療成績に関する論文が2017年「世界で影響を与えた科学論文」の3位に選ばれる。
著書に10万部超のベストセラー『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』、『世界一わかりやすい 「医療政策」の教科書』、共著に「週刊ダイヤモンド」の「経済学者・経営学者・エコノミスト111人が選んだ2017年 ベスト経済書」で第1位を受賞した『「原因と結果」の経済学』、『最高のがん治療』などがある。