『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら
[質問]
先生こんばんは。いつもお世話になっております。
私はロースクールに通っている学生です。院の夏期休業中に、隣接科目の行政学を履修し、今受けています。(行政学に関する)新書の約200頁の要約を書き(文字数上限下限制限なし)、議論したいことを二点ほど書け、という課題が出ました。集中講義ですので、提出期限は2日後です。
私はレポートを書くのが得意(なつもり。学部のときの評点はいつも秀でした)なのですが、いつも製作時間がかかりすぎます。同級生が1時間でこなしてしまう課題を、丸1日かつ徹夜しなければ完了することができません。
原因はわかっています、こだわりすぎです。要約でも、自分が納得できないと全く筆を進められません。同級生のように要領よくすることができません。学部のときはまだよかったのですが、ロースクール生になった今、主要科目でないものに余計な時間をさいている暇がないことは、重々承知しています。でも、全然進まないのです。
先生に質問です。どうしたら、自分の専門外のことでも要領よく(内容も手抜きにならないで)資料を製作することができるでしょうか。
私のやっているスタイルとして、レポートを製作するときはまずすぐにワードに打ち込みます。とりあえず提出するためには文字が書いてなきゃいけない、という考えからです。これがいけなかったりするんでしょうか。時間制限を設けても自分には効果がありませんでした。
まずは目次の章を「問い」の形に直してみてください
[読書猿の回答]
書き方は、合う合わないがありますが、私ならどうするかというのを少し書いてみます。なお私は文章を書くのが苦手なので「書くことはヒトの手に余る」という方針に立っています。
課題図書をまとめるレポートの場合は、
1.章タイトルを、問いに変換する
目次を見て各章立てを問いの形に変換します(これで複数の問いができます)。章立て以外に、自分がこの本から知りたいことや、この本のテーマに関して論じたいことがあれば、それも問いの形にしておきます。
方針としては、詳しいレポートを作りたいときは問いの数を増やし、逆に短くまとめたいときは問いの数を絞り込みます。
2.課題図書を読む
作った問いの答えを探しながら課題図書を読み、答えにあたる/使える箇所に付箋を残し、最後までざっと読み通します。
コツは作業途中で問いを増やさないことです。「どうしても用意した問い以外に気になるものが出てきた場合、最大3つまで増やしていいがそれ以上は駄目」と事前にルールを決めておくといいでしょう。
3.抜き書きする
付箋をつけておいた各問いの答えとなるものを抜き書きします。
4.並べる
こうして得られた問いと答えを並べ替えて構成をつくります。
多くは課題図書の目次の順番に並べればよいでしょう。自分なりの問題提起は文章の最初に、自分なりのまとめは最後に配置します。
5.文章にする
配置が終わったら、各問いと答えに1つの段落を割り当てて、必要なら説明・事例などを補って、段落ごとに草稿をつくります。
段落が大きくなり過ぎたら、いくつかに分割してもよいでしょう。
6.完成
全体を読み返し、表現に修正を加えて完成させます。
最初に述べたように、私は文章を書くのが苦手なので、文章執筆の中核は「認知負荷をもたらす複雑さをコントロールすること」にあると見なして、方法を考えてます。
なので、書くのが得意な人は何をめんどくさいことをいろいろやるのか、と思われるでしょう。
今回のやり方は、素材集め、構成、文章表現(の修正)など、文章執筆に必要な作業をいくつかに分割し、各段階を作業化することで、認知負荷を減らすことを狙っています。
「問いの答えを探す」というシングル・イシューに絞ることで読解と何を書くべきかという素材選択の複雑さを軽減し、「最初につくった問いと得られた答えを並び変える」ことに集中することで文章の構成に関する複雑さを軽減し、問いと答えという最低限書かなくてはならない骨組みにあとから説明や事例を追加することと最後に全体を読み返して表現を修正することを切り分けることで、文章表現を考える複雑さを軽減しています。