コロナの影響を受けても
有利子負債の削減目標は変えず

 2021年度については、純利益目標は過去最高益にあたる1600億円程度を年初に掲げ、差額の約400億円は、不動産や株式の売却、運転資金の圧縮などによって、FCF2000億円レベルの達成を目指すと見込まれた。

 しかし、新型コロナウイルス拡大による規制や天候不順などの影響を受け、純利益の予測値は1485億円まで下方修正している(第3四半期決算発表時)。それでも「業績予想の下方修正に伴い、今期末のNetDebt/EBITDA等の指標の予想も見直しておりますが、フリーキャッシュフロー創出力を高めることで、金融債務は従来予想通り削減できる見込みです」として、FCF重視のアサヒの姿勢に変化はない。

 4年後に有利子負債を1兆8000億円から1兆2000億円まで6000億円減らすには、毎年単純平均して1500億円の返済が必要となる。同時に掲げた配当性向35%の目標は、純利益1600億円に対して560億円を意味しており、仮に残ったFCFのすべて、すなわち約1440億円が有利子負債の返済に4年間継続して向けられれば、十分に実現可能な有利子負債の削減目標である。

 実際のアサヒは、欧州や豪州でのプレミアムビール主体の製品戦略による成長と、コロナ禍から回復する日本国内市場の再成長によって、FCFも2000億円からさらに伸ばしていくことを目指していよう。

M&Aが不得手な日本企業にとって
アサヒはまさにお手本

 内需型の食品業界の多くは、国内市場の成熟に直面する中、成長する海外市場の拡大を誰もが目指している。味の素、ヤクルト本社、キッコーマンのように、自社製品を主体として海外進出に早くから取り組み、ローカルの味覚や販売網に調整を重ねながら、自力で海外市場を切り拓いてきた企業もある。

 しかし、人間の食生活は生まれながらにして身に着いたものであり、海外からいきなり入ってきた味覚が国内同様にスムーズに受け入れられることは容易でない。さらに酒類となれば各国政府の酒税政策とも関連し、またグローバルでメガブランドによる市場の集約がすでに終結している。日本企業のブランドでゼロから海外市場を攻めたとしても、ニッチな市場から抜け出すことは困難を極める。

 であるならば、展開する各国でのシェアは高く、かつ緩やかだが確実に成長を見込めるプレミアムビールを主体とした優良企業を買収する戦略は合理性が高い。有利子負債は膨らむものの比較的確実性の高いFCFが見込めるため、ハイスピードでの返済も見通しやすい。

 そうしたグローバル市場での「出物」を確実にとらえ、買収の実行にまでこぎつけ、その後のPMI(Post Merger Integration)で結果を残すアサヒの経営力は、海外M&Aの多くが失敗に終わる日本企業にとって、学ぶべき点を数多く見いだせよう