アサヒが重視する
M&Aの4つのポイント

 アサヒ社長(当時)の小路明善氏は、『日経ビジネス』のインタビュー記事(2017年3月27日)にて、欧州ビール会社を矢継ぎ早に買収することで得られる競争力の源泉について、以下の4つを挙げている(*2)。これらは、その後に続く豪州での大型M&Aにも通ずる、アサヒがM&Aで重視する4つのポイントとしてとらえられる。M&Aによるグローバル市場での持続的な成長を目指す日本企業にも大いなる示唆を与えよう。

 今回の買収(筆者注:2016~2017年にわたって買収した旧ABインベブ9社の買収)で手に入れる、グローバルで戦うための競争力の源泉は大きく4つです。まず、「ペローニ」、(東欧で買収する)「ピルスナー・ウルケル」といった強いブランド。そして彼らの持つ高い製造技術と収益性。最後にそうしたブランドを育ててきた、アサヒヨーロッパのヘクター・ゴロサベルCEOのような人材です。

 特に収益性については、『日経ビジネス』の記事(2018年8月6日・13日号)にて、下記のように答えている(*3)。

──買収した事業の利益率は今も高い水準だと思いますが、巨額投資のリターンを得るために、これから利益率を引き上げる余地はありますか。
「引き上げられます。売上高に対するEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)の比率は西欧事業で約24%、中東欧事業で約31%です。この数字は、競合と比較しても高い。当社の国内酒類事業は約26%です。数量当たりの売上単価は伸びており、これから利益率は高まります。我々は買収した2つのビール事業で、当面5年間は売上高の伸び率が年平均で1桁台後半、利益は10%前後の成長という目標を掲げています。利益成長を高く設定しています」

安定した業績推移の裏には
成長努力とM&A攻勢がある

 アルコール・飲料事業は比較的安定した事業であるため、FCFを目標として掲げやすいという側面はあるだろう。しかし、アサヒのFCFは、かつて夕日ビールと揶揄され倒産寸前にまで陥った企業が、自社開発によってスーパードライを発売したことによるオーガニックな復活と成長によるものであることを忘れてはならない。

 また、そうした国内市場がいよいよ成熟・縮小に直面する中、巨額の有利子負債と増資による資金調達によって、成長する海外市場をつかんだ事実も見落とせない

 いかなる企業の安定したFCFの推移や経営目標であっても、その裏側にはたゆまぬオーガニックな成長の努力と、次なるステージを目指した積極果敢なM&Aというストーリーが支えているのである。

(本稿は、『企業価値向上のための経営指標大全』から一部を抜粋・編集したものです)

参考文献
*1 「アサヒG、売上収益・純利益最高──常務兼CFO北川亮一氏 豪州・欧州が回復先行(今期業績を聞く)終」『日本経済新聞』日本経済新聞社、2021年7月15日朝刊、18面
*2 「特集ーメガブランド 強さの限界 アサヒを襲うスーパードライの復讐ー〔PART2〕ーグローバルブランドへ高い壁 ハイネケンの背中、はるか遠く」『日経ビジネス』日経BP社、2017年3月27日号
*3 「編集長インタビューー[アサヒグループホールディングス社長兼CEO(最高経営責任者)]小路明善氏ーボリューム競争は終わった」『日経ビジネス』日経BP社、2018年8月6日・13日号