駆け出しの記者として落合さんに会いにいった僕に対して「1人ならタクシーに乗れよ」と言ってくれる。その瞬間、「自分は順番待ちしないでいいんだ」と分かったのです。
僕の中で世代論コンプレックスが薄れてきました。集団を抜けて一人になることで、自分の社会に対する価値観を一変させてくれたのです。
――ちなみに、著書を執筆するときに、落合さんには連絡したのですか。
「週刊文春」で連載を始めるときと、本が完成したときに連絡しました。
でも落合さんは監督時代から、事実関係が間違っている場合以外は、記者が書いた記事に評価を言うことはありません。
僕が電話で報告したときも、言われたのは「おお、そうか」だけ。その前後にどんな意味があるかは、僕が推測するしかありません。
――推測した結果、どんな意味に受け取ったのですか。
「それがおまえの仕事だろ」ということかなと思いました。まあ、特別何か言ってくれるとも思っていなかったですが(笑)。
――この本を落合さんも読んでいるのでしょうか。
そういうことは言わない人なんですよ。読んだかもしれないし、読んでないかもしれない。記者とは慣れ合わない人だからこそ、対峙するといまだに緊張するんです。
Key Visual by Kaoru Kurata, Kanako Onda