大ヒット商品「連発」のきっかけ

そんな私に、転機が訪れました。「ハートランド」や「一番搾り」を開発した前田仁さんという方が、私の部署に異動してきたのです。突然、数々のヒット商品を手掛けた「スーパーエース」と一緒に仕事をすることに。そのこと自体、異例で驚きましたが、彼との仕事を通じてさらに度肝を抜かれることになりました。

それまでの私は、「世の中に風穴を開ける」や「市場の逆張り」ばかりを狙い、尖った、美味しそうに聞こえる響きのいい商品ばかりつくっていました。しかし、完成度や個性、カッコよさを追い求めるあまり、お客様視点が大きく欠落していたのです。

当時担当していた洋酒は売れても数十万本、つまり数十万人相手の仕事。「わかる人だけ買えばいい」そう思っていました。つまり、すべて送り手視点での開発。お客様により喜んでいただけるにはどうするべきか、考えたことはまったくありませんでした。

片や前田さんが手掛けてきたのは、少なくとも数千万の人が買うビール。「一番搾り」のような看板商品であれば、1億人規模のお客様が相手の仕事です。少なくとも、私の数千倍大きい市場や世の中を見ていたわけです。それまでの自分の視野の狭さや、考えの浅さ、稚拙さを痛いほど感じさせられました。

最も大切なのは、「創造的破壊」

中でも最も衝撃的だったのは、現在の市場へ「動的に働きかけ、市場そのものを塗り替え、変革していく」発想、「創造的破壊」です。

「ビールとかウイスキーとか、清酒もそうだけど、成熟・衰退市場で生き残る方法はそれしかないよ」

そういわれたとき、最初は半信半疑でした。しかし、数年前に「一番搾り」で実行、成功させたと聞き、その後キリンビールに移った後も共に仕事をするうちに、私の商品づくりは180度変わりました。それ以来、私にとって商品づくりで最も大切なのは、市場をつくること。さらにその先にある、より良い未来をつくることになりました。

そのためには、既存の商品と比べながら考えていてはいけません。今までまったく存在しなかった、オリジナリティ溢れるものをつくる必要があるのです。

さらに、市場をつくり出すには、長年支持され続けるロングセラーを育てなければいけません。そのために、お客様のリアリティを徹底的に追求するようになりました。表層的なカッコよさだけではない、その裏にある見栄や本音までを見通し、商品づくりをしてきたのです。

(本原稿は、和田徹著『商品はつくるな 市場をつくれ』を編集・抜粋したものです)