言葉の力でやるべきことが明確に
「麦の帝国」は、モノトーンで無表情。統制、序列、戒律、行進。
「フルーツ・キングダム」は、カラフルで笑顔。にぎやか、自由、カジュアル、楽しそうな音楽。
このような対置構造をチームの共有イメージにしながら、私たちは誓ったのです。
「いつの日か、この会社のカルチャーさえも、もっと素敵で、新しい時代へ柔軟に対応できるように変革するんだ!」
毎日、諸先輩たちからダメ出しされ、全否定されるたびに、脳裏には、強固な城壁に囲まれた「麦の帝国」が思い浮かんでいました。
「この黒い帝国と肩を並べる、いや、それ以上にきらめく新たな王国『フルーツ・キングダム』をつくる使命がある。だから今、がんばるんだ!」
かくして「フルーツ・キングダム」は誕生し、プロジェクトチームの中で生命を吹き込まれていきました。
「スプリングバレーブルワリー」の場合
「スプリングバレーブルワリー」のインナースローガンは、「我々は“大聖堂”をつくっているのだ」でした。
クラフトビールファンの集まる「聖地」であってほしい。そして、完成まで何百年もかかるといわれたサグラダ・ファミリアやノートルダム大聖堂のように、ヒト、費用、年月が惜しみなく注がれてようやく完成するであろう、いや、永遠にストーリーは未完成のままでありたいという願いが込められています。
この言葉があれば、多少の向かい風は気になりません。「偉大なものをつくるのだから大変なのは当たり前」「私たちは、世の中を良くする、重要な任務を担っているんだ」という心がまえになっているからです。
おそらく、このプロジェクトに参加し、卒業していった人も、これを思い出すたびに、空高くそびえ立つ、厳かな大聖堂の姿を脳裏に描き、そして、開発当時の熱い気持ちすら明瞭に思い出せるでしょう。
それほどまでに言葉の力は強いのです。インナースローガンを使わない手はありません。
(本原稿は、和田徹著『商品はつくるな 市場をつくれ』を編集・抜粋したものです)