金融の理屈にとらわれずに判断する
私は穐田さんの言葉に、「やはり経営者はそうでなければ」と思いました。
「金融の理屈」で目先の売上高成長率を追い求めることをすべて否定するわけではありませんが、経営者は中長期の目線をしっかり持つことが必要だと思うのです。
東証グロース市場上場企業のHENNGEは、一度のユーザー認証で複数の業務システムにログインできる「シングルサインオン(SSO)」サービスを手掛ける企業です。売上高成長率は年20%程度で、SaaS企業としては高いとは言えないため、「HENNGEは投資対象として魅力的ではない」という人もいます。
HENNGE代表取締役社長兼CTOの小椋一宏さんはこの見方に次のように反論しています。
「SaaS企業が売上高成長率を上げようと必死になるのは、競合がひしめく中で少しでも早くマーケットシェアを獲得して『自分たちは規模の経済を享受できる立ち位置にある』ということを示したいからでしょう。だからこそ、赤字を出し続けてでも売上高成長率を上げようと我慢競争している。だが逆に見れば、競合がいないなら売上高成長率を急成長させる必要はないということです。年20%の成長でも、ビジネスが持続可能であれば十分だと思います」
私は、小椋さんの言うことは非常にまっとうだと思います。
昔から株式投資は「美人投票」と言われますし、短期的な見方で踊ったり踊らされたりすることも否定しません。しかし投資する側には、経営者の目線を知り、「金融の理屈」にとらわれずに判断する力も必要だと思うのです。
(本原稿は、伊藤潤一著『東大金融研究会のお金超講義 超一流の投資のプロが東大生に教えている「お金の教養と人生戦略」』から一部抜粋・改変したものです)