深刻さ増す円安の負の側面
かつてのように輸出金額は増えづらい
それでも肝心の構造改革は進まず、潜在成長率は停滞した。加えてコロナ禍が経済の実力を大きく低下させた。内閣府によると、21年7~9月期のGDPギャップはマイナス4.8%で、需要不足に拍車がかかっている。
米国と比較すると、わが国には経済運営の効率性を高める有力なITプラットフォーマーが見当たらない。企業の成長期待は高まりづらく、給料も増えない。景気の持ち直しペースはかなり緩慢にならざるを得ない。
また、複合的な要因を背景に、世界全体でモノやサービスの価格が急速に上昇している。要因とはすなわち(1)コロナ禍による世界の供給制約(ボトルネック)が深刻化(2)異常気象によって世界の農作物の育成が悪化(3)欧州の再生可能エネルギー由来の電力供給が落ち込み、天然ガスなどの需給が逼迫(ひっぱく)――である。
そこに円安も加わり、近年経験したことがない勢いでわが国の輸入物価が上昇している。事態はかなり深刻だ。
2月の貿易統計(速報)を品目別に見ると、輸入面では魚介類や野菜、液化天然ガスの輸入「数量」が減少した。ただし、モノの価格上昇と円安の影響によって、輸入「額」は増加した。
輸出面では車載用半導体などの部品不足によって、主力の自動車産業の生産が停滞している。需要が大きく伸びている輸出品は見当たらず、輸入物価の上昇が輸出物価を上回っている。
振り返れば、リーマンショック後のわが国では、相対的に経済成長期待が高い海外での事業運営体制を強化する企業が増えた。本邦企業の円高への抵抗力は高まったが、その裏返しとして、円安が進んでもかつてのように輸出金額は増えづらい。
円安は、国内から海外へ資金のアウトフローを勢いづかせている。それは、わが国の経済成長にマイナスだ。国内で労働市場の改革が進みづらく、先端分野での人材獲得も難しい。経済の実力が低下し、悪い円安を食い止めることが難しい状況はこうして深刻化している。