核は「自分らしいやり方」。別解として通用するまで待つ

佐藤:今回の『世界2.0』も、メタバースという理由を持ち出してはいますが、本当は書きたいものはもともと決まっていて、時代がかみ合うタイミングを待っていたんです。

箕輪厚介(以下、箕輪):そうそう、佐藤さんは作家として優秀だと思っていたから、何か書いてくださいと漠然とお願いしたところ、こんな答えが返ってきました。

「世界の作り方みたいなテーマなら書きたいんですけど、売れないですよね」

 たしかに、誰が読むんだ(笑)。だから、しばらく寝かせておいたんです。みんながなんとなく知っているものに乗せて、世界の作り方みたいなことを書いたらワンチャンあるかもしれないと。そんな雲をつかむような話をしているときに、メタバースがバーンと来た。そもそも、メタバースは世界を作る話だからいける。そこからスタートしたんです。

自分らしさを殺さずに、相手の望むものを差し出すには箕輪厚介(みのわ・こうすけ)
株式会社幻冬舎 編集者
1985年生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。2010年双葉社に入社。ネオヒルズとのタイアップ企画『ネオヒルズジャパン』を創刊し、3万部を完売。『たった一人の熱狂』(著)見城徹/『逆転の仕事論』(著)堀江貴文などの編集を手がける。2015年幻冬舎に入社後、NewsPicksと新たな書籍レーベル「NewsPicksBook」を立ち上げ、編集長に就任。『多動力』(著)堀江貴文、『日本再興戦略』(著)落合陽一など、編集書籍は次々とベストセラーに。2019年一番売れてるビジネス書、『メモの魔力』(著)前田裕二も担当。
2018年8月、自身の著書『死ぬこと以外かすり傷』を発売し14万部を突破。2019年12月には『マンガ 死ぬこと以外かすり傷』も発売。出版クラウドファンディングエクソダスにて1000万円を集め、2021年1月サウナ雑誌『サウナランド』を創刊。様々なブランドとコラボレーションを行い、「サウナランド」ブランドの展開や、各地でサウナランドフェスを開催している。

――最初にその話をされたのは何年ぐらい前ですか。

佐藤:1年半ぐらい前ですね。核となる話はどの領域にも適用できるので、テーマは何でもよかった。じゃあ、どのような形で見せるのが私たちらしいかという議論になった。そうなると、3DCGの流れとメタバースの流れをかみ合わせられる今がタイミングなのかなと思ったんです。

平尾:私は反対に、波に乗るまで待つのが嫌いなので、それはできないですね。マーケットがあったほうがやりやすい。大波がない所でも進む方法を考えるほうが簡単だと思っているんですね。次世代を大きくリードする佐藤さんのようなタイプの人は、そうやって考えるんですね。

箕輪:たしかに、佐藤さんのやり方は真似しにくいと思います。平尾さんのやり方は、スキームになっているからすぐに真似できる。本としてもすごくいいと思うんです。でも佐藤さんは、あえて逃げようとしていますからね。「うまくやろう」ともそんなに思ってないでしょ(笑)。

佐藤:私は「自分らしいやり方」があれば大丈夫です。「優れたやり方」「別のやり方」は、私にとってはおまけなので。

箕輪『世界2.0』も、知的好奇心をくすぐる本ですし、非常に面白い内容ですが、読者が真似をするようなものではないですね。

平尾:そもそも、世界征服の本ですよね(笑)。

箕輪:そうそう(笑)。

佐藤:昔、宗教家マニュアルみたいな本がありましたよね。

箕輪:『完全教祖マニュアル』(架神恭介/辰巳一世著、ちくま新書)という僕の好きな本があって、名著なんですけど、あれとほぼ同じです。人をどう動かすか、そういう話が好きな人とってはめちゃめちゃ面白い本です。

佐藤:でもそれはすごい少数。とはいえ出版する限りは部数も追う必要がある。そうなってくると、ベン図の「優れたやり方」を考えなければなりません。その意味で、メタバースは極めて「優れたやり方」です。

箕輪:佐藤さんは、実は最後にそこを意識しています。前著『お金2.0』のときも、仮想通貨の本として格好いい本にしようとしたら、佐藤さんは「いや違うんですよね。もっとダサくしたい。お金2.0はどうですか」と言われた。売れたから普通に聞こえるかもしれませんが、あのときは「ダサっ。お金2.0って」と思った(笑)。

佐藤:箕輪さんが持ってきたタイトルって……。

箕輪:「仮想通貨の衝撃!」みたいな感じでしたね。

佐藤:確かにど真ん中でしたけどね。

箕輪:でも、佐藤さんは神の目線で一般の人、それこそ主婦の方とか、NewsPicksを読まない人は何に惹かれて買うのかと、むしろ超客観的に見るんですよ。

佐藤:あのときは、「お金」じゃないと手にとってくれないと考えた。仮想通貨では手に取らないと。

箕輪:あまりにも「自分のやり方」を突き詰めているのに、最後には「優れたやり方」も「別のやり方」も入れてくるのが凄いですよね。『世界2.0』でも、世界の作り方がわかりにくいから、読者の意識が離れるかもしれないねという話をしていたら、「秋元康さんのすごさ」という項目を入れ込んでくる。そういうことをやるんです。

平尾:超客観視できているからこそ、「優れたやり方」も「別のやり方」も見えてしまうんですね。

佐藤:欲しいものが理解できるんですね。ただ、誰が何を欲しいか理解できても、自分らしさもないとつまらない。ギリギリの落としどころを作るのは私なりのやり方かもしれません。今回の本も同じ。タイトルについても、おそらく「メタバース」という語が入っていたほうが初速は伸びると思います。ただ、これからメタバースの本はたくさん出てくるはずですし、ほとんどのタイトルは「メタバース」が入る。100冊から200冊のメタバース本が出た場合、打ち消し合ってすべて埋もれてしまいます。そのとき『世界2.0』のほうが、長期的には伸びるんじゃないかと思ってこのタイトルにしたんです。

箕輪:別解力、やっているじゃないですか(笑)。

佐藤:たしかに。

平尾:ありがとうございます(笑)。