「何者になりたいのか?」しか価値がない時代の仕事の仕方

3月に『起業家の思考法 「別解力」で圧倒的成果を生む問題発見・解決・実践の技法』を出版した株式会社じげん代表取締役社長の平尾丈氏。25歳で社長、30歳でマザーズ上場、35歳で東証一部へ上場し、創業以来12期連続で増収増益を達成した気鋭の起業家だ。
そんな平尾氏が「別解の鬼」と畏敬の念を抱くのが佐藤航陽氏である。21歳で現在のメタップスを創業し、その8年後にマザーズ上場。現在はスペースデータを起業し、世界のあらゆるデータを学習し、バーチャル空間に仮想世界を構築するAIの実現を目指している。3月には『世界2.0 メタバースの歩き方と創り方』(幻冬舎)を上梓し、前著『お金2・0 新しい経済のルールと生き方』(NewsPicks Book)は20万部を超えるなど、ベストセラー著者としても知られている。
不確実性が高く、前例や正攻法に頼れない時代。そこで圧倒的な成果を出しているおふたりに「起業家の思考法」について語っていただいた。対談には、佐藤氏の上記2作品の編集を担当された幻冬舎の箕輪厚介氏も同席。佐藤氏との濃密な関わりにおいて見聞きした知られざるエピソードや、編集者・事業家目線からの「起業家の思考法」についてのご意見など、興味深いお話があった。
連載第2回は、佐藤氏の『世界2・0』の内容について踏み込んでいく。話から見えてきたのは、個人の意思が問われる世界、さながらビジネスでも人間力が問われる世界がやってくるという、身が引き締まるものだった。
(写真 株式会社じげん・津田咲 構成 新田匡央)

知りたい欲求の一方で、理解できたら興味を失う二面性

――僭越ながら、テクノロジーの本というより、現実の見方ががらりと変わってしまう本だと思いました。この本で日本のムードが変わると思ったのですが、本書に込めた思いはどこにあるのでしょうか。

平尾丈(以下、平尾):お聞きしたいことはいっぱいありますよ(ビッシリ書かれたメモを見せる)。

箕輪厚介(以下、箕輪):平尾さん、いい人(笑)。

平尾:国をつくりたいという人はいますが、世界をつくろうとしている男がいた。

佐藤航陽(以下、佐藤):それは集団の母数の違いだけで、同じものだと思いますよ。

平尾:いやいや、スケールがひと回りもふた回りも大きくて複雑ですよ。スペースデータで宇宙とメタバースというフロンティアを並行して攻めるのは、イーロン・マスクそのものじゃないですか。でも、知的好奇心を突き抜けてすべてを知ってしまうと、「できるけど、つまらない」という話になり、長続きしない可能性はありませんか。

箕輪:たしかに。

佐藤:そうですね、自分らしさの表現の一部であればともかく、自分と関係ないこと、つまり「自分らしいやり方」がかみ合っていなければ、もうほかの人にやってほしい。

平尾:支配したいタイプじゃないですよね。

佐藤:そうですね。理解したらほかの人に任せたいです。それに、物を作るのが好きなので、創造したい欲求と、ぶっ壊したい衝動を併せ持っていますね。だいたい暴れ回っているか絵を描いている。子どものころからずっとそうだったんです。

箕輪:絵、めっちゃ上手いですからね。

佐藤:だから、空間を作る、世界を作るといったことをやりながらも、それを全員が使えるようになったときに、社会システムが崩壊していく様を見たいという欲求も密かにあるんです。破壊衝動と創造欲求が、心の中に両方あるんですね。

平尾:その二律背反を昇華したうえで、宇宙やフロンティアとは関係のない、まったく異なるローカルマーケットもやっておられる。

佐藤:その意味で言えば「別のやり方」なんでしょうね。そもそも、私は家入一真さんをはじめとする「76世代」の起業家を、自分にはできないことをやっている人たちとして尊敬しています。なぜなら、インターネットが大好きでWebサービスを作っていくスタイルを、私はまだ経験したことがないからです。彼らがやってきたように、しっかりとサービスを作り込んで、おじいちゃん、おばあちゃん、女子高生に使ってもらえるところも経験しない限り、マスが何なのか、世の中とは何なのかとはとても言えないのではないか。そこを埋めるために必要に駆られてやっていることなんですよね。

「何者になりたいのか?」しか価値がない時代の仕事の仕方佐藤航陽(さとう・かつあき)
株式会社スペースデータ 代表取締役社長
1986年、福島県生まれ。早稲田大学法学部在学中の2007年にIT企業を設立し、代表取締役に就任。ビッグデータ解析やオンライン決済の事業を立ち上げ、世界8ヵ国に展開する。2015年に20代で東証マザーズに上場。累計100億円以上の資金調達を実施し、年商200億円規模まで成長させる。その後、2017年に宇宙開発を目的に株式会社スペースデータを創業。衛星データから地球全体のデジタルツインを自動生成するAIを開発。現在も「テクノロジーで新しい宇宙を創り出す」ことを目的に研究開発を続けている。米経済誌「Forbes」の30歳未満のアジアを代表する30人(Forbes 30Under 30 Asia)や「日本を救う起業家ベスト10」に選出される。著書『お金2.0』が20万部を超えるベストセラーとなり、2018年のビジネス書で売上日本一を記録した。2022年3月31日に最新刊となる『世界2.0 メタバースの歩き方と創り方』を出版。