膨大な歴史情報をデータベース化して、人類にとって意味あるものとして活用する。そんな壮大な取り組みで注目を集めているのが、株式会社COTEN代表取締役の深井龍之介氏だ。COTENが配信する「歴史を面白く学ぶコテンラジオ(COTEN RADIO)」は、「JAPAN PODCAST AWARDS2019」で大賞とSpotify賞をダブル受賞、Apple Podcastランキングでも1位を獲得した。
「当たり前」や「常識」が変化して、生き方や働き方の選択肢が多様化した時代に答え探しをしても、悩みはますます深まるばかり。そこで深井氏は、歴史を知り、自分を俯瞰することによって物事の本質を考える「メタ認知」を提唱している。初の著書『世界史を俯瞰して、思い込みから自分を解放する 歴史思考』では、偉人たちの知られざるエピソードを通して、メタ認知の練習を重ねていく。歴史を知ると、なぜメタ認知能力が高まるのか、またメタ認知はどのように役に立つのかを、深井氏に聞いた。(取材・構成/樺山美夏、撮影/竹井俊晴)
正解がない時代の唯一の答えは
「メタ認知で考える」こと
――『歴史思考』を読むと、答えは探すものではなく、自分の頭で考えて導き出すものなのだということがよく分かります。でも、今まで「答え探し」ばかりしてきた人が、いきなり自分の頭で考えるのは難しい。だから歴史を学んで自分を客観視する必要があるわけですね。
深井龍之介(以下、深井) そうです。『歴史思考』で僕が伝えたかったのは、みなさんが普段、探しているようなソリューション(解決策)は、本質的にはソリューションではない、ということです。世の中には「これが答えですよ」「こうすれば、うまくいきますよ」とうたういろいろなソリューションがあります。でも、それはみなさんが求めている真のソリューションではありません。
予測不可能な時代に、たった一つの「正解」はありません。自分の頭で考えたり苦労したりする以外の方法で、答えは見つからないんです。そして答えを見つけるには、自分を俯瞰して、やっていることをメタ認知して、この先どうすればいいのか分かるまで考え抜き、苦悩するしかない。
様々なことを知ったり、経験したり、深く考えることで、メタ的な思考を高めていくことが、唯一の本質的なソリューションなんです。
もしも「誰かに答えを教えてもらいたい」と思っている人がいたら、その考え自体が間違っています。誰かに答えを求めるのではなく、自分の頭で悩む覚悟、自分の頭で考える覚悟を決めて、1日も早く思考を巡らせたほうがいい。
でも、そう言うと、何から考えればいいのか分からずに困る人もたくさんいるはずです。だから、歴史を知ることでメタ認知する。それが「歴史思考」です。
――先日、必要があって有名大学の卒業生の就職先を調べたら、昔人気だった金融や商社、メーカーが相変わらず今も人気でした。銀行もメーカーも大リストラの時代なのに、「本当に自分の頭で考えて就職先を選んでいるのかな?」と不安に思いました。
深井 これだけ変化の激しい時代に、会社の知名度や給料といった条件だけを見て会社を選んでもしょうがないですよね。どんな会社に入ったとしても、自分がエネルギーを注げるかどうかが重要なんですから。コロナや戦争といった想定外のことが次々に起きる時代に、会社であれ、人であれ、何かに依存して、そこから逃れられなくなるような生き方だけは、避けたほうがいい。
1868年の大政奉還で幕府が天皇に政権を返上したときだって、その数年前まで、江戸幕府の重臣たちは、まさか江戸幕府がなくなるなんて思っていなかったはずです。それでも、歴史は無情に変わっていく。
だからこそ、何が起こっても生きていけるようにするにはどうするべきなのか、自分の頭で考えて、分からなければ勉強して、また考えて、自分の信念に基づいて動いていくしかないんです。そういう時代に、僕たちは生きている。
「現状維持で生きたい」の甘い幻想
――自分の頭で考えるのに最も実践的に役立つのが歴史なんですね。
深井 歴史は、知れば知るほど、どんな人がどんな生き方や考え方をしたのか、比較対象が増えていきます。すると、自分がやっていることを客観視しやすくなる。自分の仕事にどんな意味があるのか、どんな風に人や社会の役に立っているのか、メタ認知をして、まったく別の角度から見ると、気づきがたくさんあります。
歴史に限らず、人に会ったり、旅をしたり、日常を離れて、いつもと違う経験をするだけでもいいんです。「当たり前」や「常識」に囲まれた心地のいい場所を抜け出して、意識的に自分を客観視せざるをえない状態をつくっていく。すると、自分の価値観が絶対ではないことが分かってくるのではないでしょうか。
――逆に「自分の価値観」にこだわりたい人もいますよね。例えば一定レベルの暮らしを維持しながら、仕事よりも生活を楽しみたいという安定志向の強い若者も増えています。
深井 残念ながら、不確実性が増しているこの時代に、環境の変化がない生き方を望むのは無理です。歴史を振り返っても、多くの人が「大規模な戦争は起きないだろう」とタカを括っていたのに、結果的には世界が第一次世界大戦に突入していった。それと同じように、はっきり言って無理なんです。戦国時代に、「平和で静かに暮らしたい」と言っているようなものですから。
僕はみなさんに対して、「これから不確実な世界で生きるんだから覚悟しろ」と脅したいわけではありません。そんな時代でも教養を身につけることで、世界の一定の仕組みやルールを知ることができるのではないか、と考えているからです。
教養がない状態というのは、例えるなら、コートの大きさやゴールの存在、ルールを知らずに、サッカーをプレイしているようなものです。サッカーというのは、手を使わず、足でボールを蹴って運び、相手チームのゴールに入れることで得点が得られるスポーツです。そういった基本的なルールやコートの大体の大きさ、ゴールのある場所など、そもそもの仕組みを知ることなく、サッカーをプレイするのは難しいでしょう。
教養を持つということは、こうしたレベルで世界の一定の仕組みやルールを知ることです。ここでサイドラインを越えたら相手チームのスローイングになるな、ということが分かれば、自分がどう動けばいいのか分かります。同じように教養を身につけていれば、自分がいまどう動けば、どんな結果が起こるということが、ある程度見通せるようになるのではないでしょうか。
だからこそ、歴史を通して教養を身につけ、様々な時代に生きた人たちと自分を比較しながら、メタ認知の力を高めることが重要なんです。それによって、どんな時代にも適応できる生き方や働き方について考えることができるようになりますから。