勝つために逆算して攻める
小泉:僕がミクシィを辞めたときは、ミクシィのSNS時代の最高益を記録したときだったんだ。周りからすると「なんでこんなにいいときに辞めるの?」となる。でもね、僕は創業者でもないし、新しく優秀な社員がどんどん入ってきたら後進に道を譲っていきたいという思いもあったので、とりあえず辞めることにしたんだ。
平尾:辞めてどうされたんですか。
小泉:ミクシィを辞めた後、2年間は何もしていないね。いくつかの企業の社外役員をやっているけど、何かにフルコミットしていたわけじゃない。だから、仕事をしている感覚はまったくなかった。そのせいで、メルカリがスタートしてから8ヵ月間、お酒もほとんど飲まずに仕事に没頭していた。
平尾:そうなんですか。
小泉:フリマアプリ業界は、完全に「Winner takes all」モデルでしょ。当時はまだ群雄割拠の時代だったから、Winnerになるまではひたすら仕事をしようと思った。2年間も休んだし、休養は十分だったからね。
平尾:緩急がすごいですね。
小泉:奥さんに笑われるんだけど、やるとなったらとことんまでやらないと気が済まないタイプ。でも、気が抜けると腑抜けのようになってしまう。はっきりしているね。
――とことんやるときは、24時間働く。
小泉:かなりやらないと気が済まない。後悔したくなかったからね。だってWinner takes allのモデルは、勝てば1社総取りできる。でも、それが見えるまでは怖い。その恐怖を克服するには、自分がコミットするしかなかったね。
平尾:こんな話を聞いてしまったら、小泉さんとは絶対に競合したくない(笑)。怖いなぁ。
小泉:ミクシィのSNSモデルも、Winner takes allモデルでしょ。当時は20社近くも競合があったのに、ミクシィ以外はほとんど潰れていった。唯一残ったグリーは、ゲームにピボットしたから残れた。あのときも恐怖の体験だったよ。Winner takes allモデルはこんなにも敗者がいるんだ。メルカリになっても絶対にまた同じことが起こるから、生き残るしかない。勝つしかない。だからこそ、勝つために逆算して攻めた感じだよね。
平尾:先行者は「自分たちが勝つ」と思っていたでしょうね。怖いですね(笑)。
株式会社じげん代表取締役社長執行役員 CEO
1982年生まれ。2005年慶應義塾大学環境情報学部卒業。東京都中小企業振興公社主催、学生起業家選手権で優秀賞受賞。大学在学中に2社を創業し、1社を経営したまま、2005年リクルート入社。新人として参加した新規事業コンテストNew RINGで複数入賞。インターネットマーケティング局にて、New Value Creationを受賞。
2006年じげんの前身となる企業を設立し、23歳で取締役となる。25歳で代表取締役社長に就任、27歳でMBOを経て独立。2013年30歳で東証マザーズ上場、2018年には35歳で東証一部へ市場変更。創業以来、12期連続で増収増益を達成。2021年3月期の連結売上高は125億円、従業員数は700名を超える。
2011年孫正義後継者選定プログラム:ソフトバンクアカデミア外部1期生に抜擢。2011年より9年連続で「日本テクノロジーFast50」にランキング(国内最多)。2012年より8年連続で日本における「働きがいのある会社」(Great Place to Work Institute Japan)にランキング。2013年「EY Entrepreneur Of the Year 2013 Japan」チャレンジングスピリット部門大賞受賞。2014年AERA「日本を突破する100人」に選出。2018年より2年連続で「Forbes Asia's 200 Best Under A Billion」に選出。
単著として『起業家の思考法 「別解力」で圧倒的成果を生む問題発見・解決・実践の技法』が初の著書。
小泉:事業モデルを理解したうえでの攻め方があるよね。
平尾:体験されていますからね。
小泉:ミクシィもメルカリも基本的にWinner takes allモデルで、多くの人がお客さまになるモデル。僕がそういうモデルを好きなこともあるけど、そのモデルの特徴もよくわかっている。そういう意味で言えば、会社は違っても比較的近いことをやっているのかもしれない。