唾液はどこから出ているのか?、目の動きをコントロールする不思議な力、人が死ぬ最大の要因、おならはなにでできているか?、「深部感覚」はすごい…。人体の構造は、美しくてよくできている――。外科医けいゆうとして、ブログ累計1000万PV超、Twitter(外科医けいゆう)アカウント9万人超のフォロワーを持つ著者が、人体の知識、医学の偉人の物語、ウイルスや細菌の発見やワクチン開発のエピソード、現代医療にまつわる意外な常識などを紹介し、人体の面白さ、医学の奥深さを伝える『すばらしい人体』が発刊された。坂井建雄氏(解剖学者、順天堂大学教授)「まだまだ人体は謎だらけである。本書は、人体と医学についてのさまざまな知見について、魅力的な話題を提供しながら読者を奥深い世界へと導く」と絶賛されている。今回は、著者が書き下ろした原稿をお届けする。

【外科医が教える】乳児が犬に陰部を咬まれる「恐ろしい事故」とは?Photo: Adobe Stock

痛ましい事故

 以前、生後10ヶ月の乳児が犬に陰部を噛まれ、両側の精巣とペニスの一部を失う、という痛ましい事故があった(1)。

 床で寝ていた乳児を、室内で飼育していた犬が襲ったのである。新生児や乳児は、ベッドから落ちる心配もあって床で寝かせるケースは多い。一方、近年ペットを室内で飼育する家庭も非常に多い。

 2021年の調査によれば、犬の主な飼育場所として、「室内」または「散歩・外出時以外は室内」と答えた人が86.7%に及んだ(2)(ちなみに猫は90%超)。

だが、まだ自立していない乳児にとって、自分以外の全ての動物は脅威に他ならない。他の多くの哺乳類とは違い、ヒトの子は生まれてからずいぶん長い間、自力で移動する能力を持たないからだ。

 襲われれば全く逃避できないのだから、ひとたまりもない。

おむつの臭いを誤解?

 報告によれば、犬に陰部を咬まれる事例は、とくに乳児に多い。犬がおむつの尿の臭いをエサだと誤解するからとの説もあるようである(1)。

 前述の事例で乳児を襲った犬は、雑種の中型犬であった。だが、ミニチュアダックスフンドに生後4ヶ月の男児が陰部を咬まれ、右側の精巣を摘出した事例もある(3)。普段はおとなしい小型犬であっても、幼い子どもにとっては油断できない相手だ。

 両側の精巣を失えば、将来子どもを作れない。陰部咬傷は、生涯において人生に多大な影響を与えうる外傷だ。

 私たちの日常は、生まれたばかりの乳幼児にとって、大いなる危険であふれている。

 日本小児科学会は、「Injury Alert」として子どもの外傷事例をまとめ、啓発を目的に一般に公開している。痛ましい事故を繰り返さないための大切な情報発信である。

 幼い子を持つ私たちにとって、まずは意外なところに恐ろしい危機が潜んでいるという事実を知ることが最も大切だろう。

【参考文献】
(1) https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/injuryalert/0002_example.pdf
(2) https://petfood.or.jp/data/chart2021/index.html 
(3) https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/injuryalert/0002.pdf

(※本原稿はダイヤモンド・オンラインのための書き下ろしです)