現役学生やOB/OGらのナマの声を取材し、20年超にわたって毎年刷新しているロングセラー書籍『『大学図鑑!2023』』。本連載では、82校を500ページ超にわたって詳細に解説しているが、その一部をご紹介していこう。学部ごとの詳しい情報や口コミミニ情報などは本書をご覧いただくとして、大学の雰囲気や文化が良く伝わる部分のみ抜粋した。

「塾生」や「塾員」のつながりは最強!エリート意識とプライドの高さもダントツ

■歴史と基本的な立場■
福澤諭吉が開いた蘭学塾を起源とし、1868(明治元)年から「慶應義塾」としてスタートした大学であることは日本史で習った通り。「実学」に価値を置く伝統がある。

広告、建前、裏取引いっさいなし!進学先選びに親子で読もう、真の大学案内「お金持ち?ちゃらい?スマート?慶應義塾大学」編スマート!(写真はイメージ。Photo: Adobe Stock)

■学生の気質■
コミュニケーション能力に長けていて、大人っぽい。何か大きな組織に属することにプライドを感じている。目標のために、他人と結束し合理的な行動をとる。

■世間の評判■
「スマート」「オシャレ」「お金持ち」「チャラい」といったところ。前者2つはその通りだが、「お金持ち」は一部の内部生のみ。「チャラい」学生も減った。

■慶大生の生活と性格■
学生生活を楽しみながらもスマートに人脈づくりに励む

要領よく単位を取り、就活の情報を集め、優良企業に就職していく慶應生は、自分の目標に向けて、割り切った行動ができる合理主義者だ。コミュニケーション上手で、洗練されたふるまいをするのも特徴。相手の言わんとしていることや、求められていることをすぐに察するし、人と意見が違ったとしても、うまく自分の主張を伝える能力に長けている。まるで社会人と話しているかのよう。このような要素が相まって、慶應生は世間から「スマート」と呼ばれる。自分を格好よく見せようとする傾向にあり、必死な姿を見せたがらない。あまり謙遜はせず、プライドが高いのはたまに傷。自尊心が隠し切れずに、慇懃無礼になっているタイプも見かける(たいてい本人は気づいていない)。ただし、これらは三田生の特徴で、日吉生の場合は食堂ではワイワイはしゃぐなど、ふるまいが無邪気で子どもっぽい。

一般的に、慶應生はチャラいともイメージされるが、一部の人(強烈にハデな「EXILE系男子」は存在する)が目立つだけで、大多数はフツー。そういったイメージで見られることを、本気で嫌がっている学生は少なくない。とはいえ、姿勢よく颯爽と歩く学生が多く、自信とプライドを感じさせる。

●帰属意識…慶應の学生は、何か大きな組織に所属することを良しとする。サークルやゼミに入るのは当たり前の雰囲気で、「入っていないと、一瞬、『君、協調性ないの?』的な雰囲気になるので、サークルに入ってるって嘘をついている」という人までいる。慶應では、内部生が希望する進学先の順番が、そのまま学部ヒエラルキーとなっている(入試偏差値など、その他要因も加味されてはいるが)。また、「エライ順は、幼稚舎生>幼稚舎以外の内部生&体育会系>大学で入った人」という説もあるほど、内部生の影響力は高い。つまり、これらも長く慶應という組織に属している者ほど良しとされる意識の表れだ。

●懐具合…「お坊ちゃん、お嬢さん視するのは先入観」とはいうものの、仕送りは20万円近くという学生がけっこういる。親や祖父母が地方の名士で、慶應OBだと、子どもも慶應に入学させるというパターンがよくあるからだ。また、慶應全体において、2割弱を占める内部生はとても裕福だ。さらに、その中でも慶應幼稚舎(付属小学校)出身者は、超がつくほどのお金持ち。一方、ごく普通の家庭に育ち、「奨学金のおかげで慶應に通える」という学生もいるわけだが、奨学生は1割強しかおらず、ほかの大学に比べるととても低い水準となっている。「どのくらいお金を持っているかで自然とグループが決まっていくので、まあ大丈夫」とは、庶民派に属する学生の弁。

 バイトは塾講師や家庭教師など、手堅いものをやっている人が大半。「慶應生というだけで時給3000~5000円の家庭教師バイトができる」そうだ。中には、政治家の事務所の雑用など、「金より人脈」を意識したバイトもちらほら。

●ファッション…総じておしゃれ。ネットや雑誌で流行をチェックするなど、努力も惜しまない。男女ともに、日吉は若々しいカジュアル路線が主流だが、三田では大人びたキレイめの格好になり、メイクもうまくなる。「地味そうに見えても、バッグと財布はハイブランドのものを持っている人が多い」(経済学部生)。

●イベント…三田祭は大規模で活気のある学園祭。約400団体が出展し、4日間で約20万人以上が来場するという。大ステージでは、ダンスサークルによる華やかな舞台が続き、ミスターコンでは黄色い悲鳴が上がる。文化祭には、普段、授業に出ていない強烈にハデな男女も現れるため、学生の雰囲気がいつもとは結構違う。また、「非慶應生が非慶應生をナンパする」光景もよく見かける。このほか、矢上には矢上祭、信濃町には四谷祭、SFCには七夕祭と秋祭、芝共立では芝共薬祭がある。七夕祭では学生たちの浴衣姿が名物。

●体育会・サークル活動…早大ほどではないが、種類、数とも豊富で、公認学生団体だけで400以上ある。日吉の学生たちの約7割はどこかに所属しているとか。サークル施設の塾生会館や食堂棟の学生団体スペースには活気があり、いつも学生であふれている。人数の多さで幅をきかせているのは、テニスとダンスサークル。ただし、3年になって三田に移るとゼミ中心の生活にシフトするため、よほど本気度の高い学生以外はサークル活動を卒業する場合が多い。

●飲み会…日吉の学生たちはよく飲んでいる。テニスサークルの飲み会は、朝までオールもあるとのこと。ただし、近年は新入生にアルコールパッチテストのキットが配られたり、飲酒事故対策の啓発が行われたりして、昔のようなアホ飲みは減った。日吉駅周辺の居酒屋も使うが、渋谷に出ることが多い。「塾生、注目!」なんてかけ声が聞こえてきたら、慶大生の集まりだと思って間違いない。三田の学生たちも渋谷あたりで飲むが、大人らしく節度を保って飲む。お金持ちの子たちは、銀座や六本木でも飲む。

●恋愛…学内恋愛率は、まあそこそこ。学外においては知的なイケメンが多そうなイメージが定着しているためか、男子で慶應はそれなりに有利だが、女子は引かれてしまう傾向。ただ、慶應の女子は学歴で引くような相手は恋愛対象にはしないので、別に問題はない。女子学生たちは社会人とつきあうケースがけっこう多い。慶應義塾高校(通称、塾高)の文化祭には女子がナンパ待ちに押し寄せることで有名で、塾高生は年若い頃から女慣れしている。男の場合、モテるかどうかは女性経験値によるところが大きい。「清潔感を磨くとか、コミュ力を鍛えるとか、努力は必要。大学名だけでモテることはない」(法学部生)との声も。

●SFC学生気質…個性豊かで、一般常識にとらわれないタイプの学生が多い。服装もバラバラで、今風の若者もいれば、赤や青や銀といった奇抜な髪色の学生、冬でもビーチサンダルを履いている者もいる。総じて、自分の興味・関心事を追究することに重きを置いているのが特徴。研究に精を出す人、ドローンを飛ばす人など、勉強でも趣味でも、自分のやりたいことを自由にやっている学生が多く、「ある意味カオス」だそう。SFCでは、面白いやつ、スゴイやつほど、授業には来ずに、別の場所で何かをやっているとはよく聞かれる話だ。SNSなどで情報を発信したり、起業したりする学生もいる。「興味・関心は差し置いて、何かしらの成果を挙げたいがために行動する学生が増えてしまった」とは、昔からSFC生と関わっている社会人の談。とはいえ、勉学熱は、慶應文系学部では随一。もちろんサークルをはじめ、グループワーク、ゼミ、インターンなど多彩なコミュニティで仲間をつくることもできる。しかしその一方、連日連夜パソコンの前にはりついて「楽しい」と言い切る学生も少なくない。

■ホンネの就職状況■
恐るべし! 三田会パワー!
私大の中ではナンバー1の就職力だと言えよう。某経済誌の就職総合ランキングでは、法・経済・理工でトップ3を独占するほど。ほぼすべての企業のエントリーで足切りされることはないし、面接もトントン拍子に進む場合が多い。なにせ東証一部上場企業の社長の出身大学で最も多いのはダントツで慶應大である。慶應ブランドが就職に有利なのは間違いないだろう。就活を終えた学生たちの声は「一部の人はいろいろな大企業からリクルーターが来るので、待っているだけで内定をもらえる」「OB・OGから内定につながる会合を紹介してもらえた。ただし、学内外の人脈を広げておくのが大事」など。

厳しいと言えるのは、外資系の金融会社やマスコミなど、就職人気ランキングの上位にいつも来るようなブランド企業だけ。この傾向は卒業生たちが形成する「三田会」という組織の力ゆえでもある。卒業年度別、地域別、業界別、学部やゼミ別、サークル別など、800以上の団体を有する三田会は、企業社会と慶應大学をつなぐ強力なパイプ。ネット上には塾生だけがアクセスできるOBリストや、塾員(卒業生)が集う大学公式SNSがあり、就活時のOB訪問にも重宝されている。つまり、すでにブランド企業に勤めている卒業生たちが、三田会パワーで慶大生たちの就職をバックアップしているのだ。これはもちろん、就職後の仕事上でのコネクションとしても威力を発揮している。さらに「三田会に頼らなくても、サークルやゼミに強固なネットワークがある」との声も。そんなこんなで何かと有利ではあるものの、大手企業に入社するのは慶應大に入学するよりもはるかに難しいわけで、甘く見過ぎていると痛い目に遭う。早めの準備と対策は必要だ。

SFCの総合政策学部と環境情報学部は、「ヘンに自立心が強くて、使いづらい」など、やや色眼鏡で見られることも。おカタい企業には向かないが、ベンチャーや社会起業の分野では大きな存在感を示している。