そうなると今度は、いつから変えるとよいかをシミュレーションしてもらいます。コーチングには、「タイムライン」という考え方があります。たとえばオリンピックを目指すような選手だと、大きな大会が毎年のようにあります。何年にオリンピックがあり、その2年前に世界選手権があって……。実際に大会に参加しているシーンをイメージしてもらって、銃を替えるタイミングを考えてもらうと、「世界選手権の後に変更するとよさそうですね」という明確な答えが出てきました。

選手の「自分会議」に
ほんの少し刺激を与える

五輪選手を支えたコーチングの本質、「具体的にアドバイスしない」が正解?

 意外に思われる方もいるかもしれませんが、私は射撃代表選手に対して、何か特別に高度な知識を用いてコーチングをしたわけではありません。そもそも専門的な知識も持ち合わせていません。具体的なアドバイスも出せませんし、出す必要も感じていません。日々、選手らが取り組んでいる自分会議に、ほんの少しの刺激を加えることが大切なんです。一緒に想像して、考えてみる。それが、スポーツメンタルコーチングの基本姿勢となっています。

 というのも、選手自身は自分の中に「うっすらとした答え」を持っているんですよね。潜在的に持ち合わせている答えやアイデアを顕在化させるために、選手1人では行わないような問いかけをはじめとする刺激を、色々な角度から提供する。すると選手が自ら、点と点を結ぶ何かに気づいたりするのです。

 あくまでも主語は選手。主体性をもって課題に向き合う姿勢が構築できれば、自然と結果がついてくるので不思議ですよね。

柘植 陽一郎(つげ・よういちろう)/一般社団法人フィールド・フロー代表。1968年生まれ、スポーツメンタルコーチ。専門はメンタル、コミュニケーション、チームビルディング。KDDIグループにおいて10年間広報に従事した後、2005年にプロコーチとして独立。2006年より本格的にアスリートのサポートを開始。個人競技・団体競技を問わず、プロ・オ リンピック代表から中学高校部活動まで幅広くサポートする。また日本全国で、 選手・指導者・トレーナー・スポーツ関係者に向けてメンタル・コミュニケーショ ン・チームビルディングに関する講演を行っている。著書 に『最強の選手・チームを育てるスポーツメンタルコーチング』(洋泉社)、『成長のための答えは、選手の中にある』(洋泉社)

*柘植陽一郎・一般社団法人フィールド・フロー代表に聞く(2)に続きます。