「自分らしさ」は過去を掘り下げることでしかわからない
――企業でもビジョン・ミッション・バリュー、パーパスが重要になってきています。渡邊さん、中原さんのお話と通じるところがありますか。
平尾丈(以下、平尾):私は大学卒業後にリクルートに就職し、採用業務を経験しました。面接では、アショカさんの15時間ほどではありませんが、生まれてからの生い立ちを追うときに理由を聞くんです。過去からしかその人の特性は出てこないというのが理由です。
その人がこれまでどういう人と仲が良くて、何が好きで、何が嫌いで、何を格好悪いと思っているのか。なぜクラブ活動を野球にしたのか、なぜサッカーではなかったのか。そうした「自分らしさ」は過去からしかわからないので、聞き取り調査のように聞き、A3の白紙を埋め尽くすほどメモを書いていました。その人のことを短期間で理解するには、ファクトを集め、そのときの意思決定と行動特性を把握し、その人が問題を解決する際にどのような行動をするかを見るのです。
「火事が起きたら何をするか」
その人が火を消しに行くタイプなのか、逃げるタイプなのか、荷物を運んで誰かを助けようとするタイプなのか。緊急時にこそ人間性が出るので、それを知れば仕事に役立つと思います。今でも、同じような形でじげんでも行っています。
上手に言語化ができる人は、ロジカルシンキングの能力が高いと評価できますが、それと行動特性はあまり関係ないので、それは注視しています。誰かの受け売りで語ることもできます。しっかり行動ベースで過去を追いかけていけば、見えてくるものがあると思います。
渡邊:それは同じですね。アショカでも深く聞いていくので、怒る人もいますよ。
平尾:人間の深い部分や、内面に土足で入ってこられる感じがするのかもしれませんね。
渡邊:怒鳴られたこともあります。でも、本当に真摯に生きている人は喜びますよ。嬉しいじゃないですか、そんなことまで聞いてくれたら。
平尾:そうですよね。人生を聞かれることなんて、ほとんどないですからね。
渡邊:アショカのインタビューで第二の生を得たなんて言う人もいました。
平尾:リクルートは「自分より優秀な人を採用する」ために、深く聞いていきますが、その聞き方、引き出し方のスキルは、面接官で差が出ましたね。
渡邊:そう思います。この面接は形式ではないので、マニュアルもなく、本当に人間に興味があるかどうかが問われるのです。興味があれば、どんどん質問が出てきますし、もっと知りたいと思うんです。
――15時間質問し続けられるくらい相手に興味がないとできない。
平尾:面白いですね、就職活動と共通項がありますね。それを楽しみながらできたのは、私も人に対して興味があったからだと思います。
株式会社じげん代表取締役社長執行役員 CEO
1982年生まれ。2005年慶應義塾大学環境情報学部卒業。東京都中小企業振興公社主催、学生起業家選手権で優秀賞受賞。大学在学中に2社を創業し、1社を経営したまま、2005年リクルート入社。新人として参加した新規事業コンテストNew RINGで複数入賞。インターネットマーケティング局にて、New Value Creationを受賞。
2006年じげんの前身となる企業を設立し、23歳で取締役となる。25歳で代表取締役社長に就任、27歳でMBOを経て独立。2013年30歳で東証マザーズ上場、2018年には35歳で東証一部へ市場変更。創業以来、12期連続で増収増益を達成。2021年3月期の連結売上高は125億円、従業員数は700名を超える。
2011年孫正義後継者選定プログラム:ソフトバンクアカデミア外部1期生に抜擢。2011年より9年連続で「日本テクノロジーFast50」にランキング(国内最多)。2012年より8年連続で日本における「働きがいのある会社」(Great Place to Work Institute Japan)にランキング。2013年「EY Entrepreneur Of the Year 2013 Japan」チャレンジングスピリット部門大賞受賞。2014年AERA「日本を突破する100人」に選出。2018年より2年連続で「Forbes Asia's 200 Best Under A Billion」に選出。
単著として『起業家の思考法 「別解力」で圧倒的成果を生む問題発見・解決・実践の技法』が初の著書。
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