「なぜデマは真実よりも速く、広く、力強く伝わるのか?」SNSに潜むウソ拡散のメカニズムを、世界規模のリサーチと科学的研究によって解き明かした全米話題の1冊『デマの影響力──なぜデマは真実よりも速く、広く、力強く伝わるのか?』がついに日本に上陸した。ジョナ・バーガー(ペンシルベニア大学ウォートン校教授)「スパイ小説のようでもあり、サイエンス・スリラーのようでもある」、マリア・レッサ(ニュースサイト「ラップラー」共同創業者、2021年ノーベル平和賞受賞)「ソーシャル・メディアの背後にある経済原理、テクノロジー、行動心理が見事に解き明かされるので、読んでいて息を呑む思いがする」と絶賛された本書から一部を抜粋して紹介する。

「価値ある情報を持つ人と持たない人」決定的な差Photo: Adobe Stock

「似たものどうし」が集まる

 私の友人で同僚でもあるダンカン・ワッツは、いわゆる「スモール・ワールド理論」の研究の先駆者である。コーネル大学のスティーヴン・ストロガッツとともに、今のネットワーク科学の礎を築いた人でもある。

 クラスターは、時に非常に遠いクラスターと結びつくことがある。その結びつきは弱いが、そのおかげで非常に遠い位置にいる二人の人間が結びつくこともあり得る。

「世界中の人たちのあいだの隔たりは皆、6次以内になっている(1)」とも言われている。社会的に関係が遠いはずの人と自分に共通の知り合いがいるとわかって驚き、「世間は狭い」と思うことが多いのはそのためだ。(関連記事:「世間は意外と狭い」実は科学的に証明されている

 第5章でも触れるが、フェイスブックは、ユーザー数を増やすさいに人間関係のこの性質を利用した戦略を採った。マイスペースに勝つべく、フェイスブックでは、クラスターとクラスターを結びつけるのではなく、まずクラスター内の人たちを結びつけようとしたのだ(2)

 同じ大学のキャンパス内にいる人を次々に友達にするよう仕向けた。自分と属性が似た人であれば、安心して気軽に友達になりやすい。だから、短いあいだに友達の数は急激に増える。

価値のある情報の本質とは?

 距離の遠いクラスターどうしの結びつきは弱いが、この結びつきは重要である。互いにとって新奇な情報がこの結びつきによってもたらされるからだ。距離が遠い分それぞれのクラスターの持っている情報は、互いにとって異質なものであることが多い。

 私の友人で同僚でもあるロン・バートが言っているとおり、同じクラスターに属する人たちの知識や考え方は互いに似通っている。クラスター内の人とだけ関わっていると新しい情報はまず入ってこない。入ってくるとすれば、弱くつながっている他のクラスターからということになる。

 情報の価値は、ネットワークが均質でないことから生じていると言ってもいいだろう。異質なクラスターが各所にあるからこそ、それぞれの持つ情報に価値が生じるわけだ。どこにも同じような情報が同じようにあれば、どの情報もさほど価値を持つことはない。

異なるタイプの集団を行き来できる人

 クラスター内から外の新奇な情報を取り入れられる人は、イノベーションを起こせる可能性がある。既知の情報だけでは解決不可能な問題に、新奇な情報を適用することで対処できることがあるからだ(3)

 型にはまらない考え方のできる、いわゆる「ソート・リーダー」とは、このようにクラスターの外から情報を取り入れられる人のことだろう。この種の人たちは、コネクター、ブローカー、インフルエンサーなどとも呼ばれる。

 正確には、「型にはまらない」考え方ができる人たちというよりも、「クラスターの外に出て」考えることができる人たちだろう。

 多様な人たちから成るネットワークを持っているおかげで、仕事を得ることが容易で、企業のなかでは昇進する可能性が高く、経済的にも恵まれることが多い。異質なクラスター間を行き来し、新奇な情報を行き来させることで新たな価値を生み出しつづける人たちだ。

 いわゆる「アテンション・エコノミー」においては、こうして新奇な情報を皆にもたらしつづけられる人が王になれる。

【参考文献】
(1) J. Travers and Stanley Milgram, “An Experimental Study of the Small World Problem,” Sociometry 32(1969); Duncan J. Watts, “Networks, Dynamics, and the Small World Phenomenon,” American Journal of Sociology 105, no. 2(1999): 493-527.
(2) This “group-based targeting,” incidentally, is the same go-to-market strategy advocated by Jeffrey Rohlfs in his seminal paper on network effects published in 1974 and reiterated onstage by Sean Parker in conversation with Jimmy Fallon, in reference to Face- book's go-to-market strategy, at the NextWork Conference in 2011.
(3) Ronald Burt, Structural Holes: The Social Structure of Competition(Cambridge, Mass.: Harvard University Press, 1992)〔ロナルド・バート『競争の社会的構造』安田雪訳、新曜社、2006年〕; Ronald Burt, “Structural Holes and Good Ideas,” American Journal of Sociology 110(2004): 349-99; A. Hargadon and R. Sutton, “Technology Brokering and Innovation in a Product Development Firm,” Administrative Science Quarterly 42(1997): 716-49; R. Reagans and E. Zuckerman, “Networks, Diversity, and Productivity: The Social Capital of Corporate R&D Teams,” Organization Science 12, no. 4(2001): 502-17; Sinan Aral and Marshall Van Alstyne, “The Diversity-Bandwidth Trade-Off,” American Journal of Sociology 117, no. 1(2011): 90-171.

(本記事は『デマの影響力──なぜデマは真実よりも速く、広く、力強く伝わるのか?』を抜粋、編集して掲載しています。)