まずは初期的見解だけでも相手に伝える

 中には、中途半端な情報を相手に伝えることに罪悪感を持つ人もいるかもしれません。特に、テストで100点を目指すように指導されてきた日本人には、不完全なものを相手に伝えることに抵抗を持つ人も多いでしょう。

 MBAの授業では、日本人は発言しないことで知られています。しかし、MBAではクラスへの貢献度も評価対象になるため、発言しない学生は教授から評価されません。

 アメリカで幼少期を過ごしたとはいえ、日本での教育も受けた私も例外ではありませんでした。先生の質問に対し正解が分かったら手を挙げて発言をするのが、日本では一般的な作法と見なされています。

 私が卒業したIEビジネススクールの授業でも、多くの生徒が積極的に手を挙げて発言していましたが、いくつかの授業に出て気づいたことがあります。それは、

生徒は正解を発表しているのではなく、自分の意見を相手に伝えることで、コミュニティに貢献しようとしている

 ということです。MBAのクラスで常に発言していたのはケニア出身の学生でしたが、彼の発言は間違っていることも、内容が浅いことも少なからずありました。

 しかし、彼の発言をきっかけとして、他の人が自分の経験を共有したり、別の視点から意見を言うことで議論が深まったりすることもありました。

 この発見を機に、私はクラスの中で最初に発言することを心掛けるようにしました。

 最初に発言することはリスクが高く、見当違いなことを言ってしまう可能性も高くなりますが、それでも、最初に発言することで後の発言の精度も上がってきますし、何よりコミュニティに貢献することで周囲から感謝され、コミュニティのメンバーとして見なされるようになります。

 また、自分の意見を出しにくいときには、質問を投げかけることも有効です。質問をすることで、他の人が発言しやすくなりますし、自分が何を知りたいかを明示的に伝えることで議論の方向性を定めることにも貢献できます。

「会議では最初に発言するようにする、自分の意見が特にないときには質問をする」ことで、初期的見解や疑問を素早く相手に伝えることは、とても有意義なことです。

 何も発言しないことによってコミュニティの一員としてみなされないことの方が、発言することによる失敗よりもリスクが高いということを肝に銘じましょう。

坂田幸樹(さかた・こうき)
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)、IGPIシンガポール取締役CEO
早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト&ヤングに入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。
2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。
現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
IGPIグループを日本発のグローバルファームにすることが人生の目標。
細谷功氏との共著書に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(ダイヤモンド社)がある。
超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社、2022年6月29日発売)が初の単著。