売れない営業担当ほど
「失注した理由」を聞いていない

――「顧客目線の営業プロセス」を理解した上で「4つの不」はどんなふうに関わってくるのでしょうか。

麻野:「4つの不」とは、営業プロセスのなかで顧客自身が「やっぱり、やめておこう」と思う理由のことなんです。

①の「不信」に関して言えば、たとえば顧客が情報収集をするときに「なんかこの会社、怪しそう」と思ったら、その時点でその会社の情報を収集しようとは思わないですよね。顧客の信頼を得られず、商談を始められないのが「不信」です。

②の「不要」は顧客が「やっぱりいらないよね」「必要ないよね」と感じることです。つまり「課題の訴求」がきちんとできていないわけです。課題を感じていないのですから、当然、こちらの提案もまったく求められていない状態です。

③の「不適」とは「ほかの商品のほうがいいよね」と顧客が感じている状態。すなわち「比較の訴求」ができていないわけです。他社との違いを十分に伝えられていないので、「競合との比較一覧表」の資料を用意するなど、他社の商品・サービスに比べて、自分たちの商品・サービスがいかに課題解決に貢献できるかを伝える必要があります。

④の「不急」とは、端的に言えば「別に今でなくてもいいよね」です。

商品やサービスにもよりますが、大きな会社に提案する場合、当然稟議を通さなければなりません。すると顧客も「わざわざたいへんな稟議を通すことを考えたら、別に今すぐでなくてもいいか」と思います。

営業担当はこうした「4つの不」を乗り越えなければなりません。当然「4つの不」は自社の商品の特徴、競争環境、顧客特性などさまざまな要素によって変わってきます。

たとえば、中小企業の経営者に「オフィス移転」について営業する場合、経営者自身がオフィス移転の必要性が感じているなら、重要なのは「不適」ですよね。ほかのオフィスに比べて、このオフィスがいかにいいのかを訴求できれば、一発で意思決定をしてもらえる可能性があります。

これがもし「大企業にITシステムを営業します」となったら、稟議がとにかく大変なので、最終的に「不急」をいかに乗り越えていけるかがカギになるでしょうね。営業担当が、そのあたりのポイントをどれくらい踏まえて営業できているか。とても差がつく部分です。

――「4つの不」に関しては、営業活動を始める前から「どの不がポイントになりそうか」はわかるものですか。

麻野:ある程度はわかります。例えば、弊社のような創業間もないスタートアップなら、まずは「不信」ですよね。「誰? あんたたち?」とならないためにも、営業担当が商談へ行くときに『NEW SALES』を持っていって「こんな本を出してるんです」と見せるのも、「不信」を突破する一つの方法です。

一方で、私たちはオリジナリティの高いシステムを提供しているので「不適」の問題はあまり起こりません。比べる他社があまり存在していないんです。そのあたりは相手に会う前から、わかっていることです。

「電子契約のシステムを営業します」となったら、「不要」の問題はそんなに起こらないんです。「電子契約に移行していくことは必要だよね」と感じているところは多いので「不要」はほぼ問題になりません。ただし、同じようなシステムが世の中にいっぱいありますから、「不適」を乗り越えるのはものすごく大変です。

自社の知名度や信頼性が薄かったら「不信」を乗り越えるのが大変ですし、顕在的なニーズになっていなければ「不要」が大きく立ちふさがります。商品やサービスをネットで検索してみて、ヒットする数が少なければ、それだけまだ顕在的なニーズになっていない状態です。逆に、ヒット数が多いということは、それだけ競合が多いということ。今度は「不適」との戦いになります。

最後の「不急」は「顧客の規模」と言っていいでしょうね。稟議が大変であればあるほど「別に今じゃなくてもいいよね」となりますから。たいてい大企業は年に一度予算を組みますし、そのタイミングでなければ、稟議を通すのはめちゃくちゃたいへんです。相手の担当者も嫌がります。

――非常にわかりやすいですね。「4つの不」のフレームワークを持っているか、いないかで大きな差が生まれそうですね。

麻野:本当にそうだと思います。だからこそ、失注したときに、その理由を聞いておくことが大事なんです。

商品やサービスにもよりますが、相手の担当者ときちんとした関係を築けていれば「10分だけお時間をいただいて、今回、ご導入いただけなかった理由を教えていただけますか」と言うと、たいていは対応してくれます。

そのときに「4つの不」を念頭に置きながら失注理由を聞き、それを会社として蓄積していけば、これだけでも大きな意味があります。これも大切なナレッジの共有化です。

そういう意味でも顧客とどんな関係を築くかはとても重要になってきます。顧客から見たときに「この人は自分の利益のためだけに営業に来ているな」と思ったら、「契約しない理由」をわざわざ説明する義理は感じないでしょうし、反対に「私たちの利益のために、真剣に考えてくれているな」と感じられれば、仮に契約に至らなくても、その理由をていねいに、正直に教えてくれます。同じ失注でも、その先で大きな違いになっていくのです。

【大好評連載】
第1回 なぜ今、これまでの営業スタイルが通用しないのか? 新時代の営業「ストーリー営業」が必要なワケ
第2回 「ビズリーチ」のCMには営業に必要な「4つの要素」が詰まっている
第3回 「ナレッジの共有化」ができれば、どんな営業組織も生産性が倍増する

■著者紹介
麻野耕司(あさの・こうじ)
株式会社ナレッジワークCEO

1979年兵庫県生まれ。2003年慶應義塾大学法学卒業。同年、株式会社リンクアンドモチベーション入社。2010年、中小ベンチャー企業向け組織人事コンサルティングの執行役員に最年少(当時)で着任。気鋭のコンサルタントとして、成長企業の組織変革を手掛ける。2016年、国内初の組織改善クラウド「モチベーションクラウド」を立ち上げ、多数の大手企業に導入。国内HRTechの牽引役となる。2018年同社取締役に就任。2020年、「できる喜びが巡る日々を届ける」をミッションに、株式会社ナレッジワークを創業。2022年、「みんなが売れる営業になる」を実現するセールスイネーブルメントクラウド「ナレッジワーク」をリリース。営業ナレッジの展開や営業ラーニングの提供を通じた営業生産性の向上や営業力強化を支援する。主な著書は『THE TEAM』(幻冬舎)、『すべての組織は変えられる』(PHP研究所)。
「4つの不」がわかれば、売れない営業の「売れない理由」が見えてくる