混迷ウクライナ#13Photo by Yoko Akiyoshi

安倍晋三元首相の訃報が届いた。首相経験者が選挙演説中に銃撃を受けるという衝撃的な事件が起きてしまった。首相の座を退いた後もさまざまな分野で積極的な提言を続けていた安倍元首相。追悼の意を込めて、生前に「核共有」に関する提言を語った特集『混迷ウクライナ』の#13のインタビューを再掲してお届けする。

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受け、安倍元首相は民放の番組で欧州の核共有について言及し「タブーなき議論」が必要だと主張した。日本の国是である非核三原則に反する核共有になぜ触れたのか。安倍元首相への単独インタビューで真意に迫った。

※本記事の初出は2022年3月23日です。安倍元首相の訃報を受け、有料会員記事を1週間の期間限定でどなたでも読んでいただけるようにしました。

プーチン氏が安倍氏に語っていた
ウクライナ侵攻の背景

――ロシアのプーチン大統領とは過去27回、首脳会談を行いましたが、彼はなぜウクライナ侵攻をしたのだと考えていますか。

 プーチン氏は米国に強い不信感を持っています。その不信感がどこから来るかといえば、NATO(北大西洋条約機構)の拡大です。東西ドイツ統一についての議論の中で1990年、米ブッシュ政権のベーカー国務長官がソ連のゴルバチョフ党書記長(肩書は全て当時)と会い、NATOについて「1インチたりとも範囲を東方に拡大しない」と述べています。

 しかしNATOはポーランド、チェコ、バルト3国とどんどん拡大しました。これについてロシアは「だまされた」という思いを持っているわけです。

 米国は「1インチたりとも拡大しない」と述べたことは認めていますが、それは交渉の過程での一つの理論であり、条約の中には書かれていないという立場です。約束ではないし、密約でもないのだと。この「NATO拡大は約束を破ったものだ」という不信感について、私が会った中でもプーチン氏は触れていました。

――プーチン氏がウクライナに対し、軍事侵攻に踏み切ることを予想していましたか。