変化が激しく先行き不透明の時代には、私たち一人ひとりの働き方にもバージョンアップが求められる。必要なのは、答えのない時代に素早く成果を出す仕事のやり方。それがアジャイル仕事術である。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社、6月29日発売)は、経営共創基盤グループ会長 冨山和彦氏、『地頭力を鍛える』著者 細谷 功氏の2人がW推薦する注目の書。著者は、経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)で、IGPIシンガポール取締役CEOを務める坂田幸樹氏だ。業界という壁がこわれ、ルーチン業務が減り、プロジェクト単位の仕事が圧倒的に増えていく時代。これからは、組織に依存するのではなく、一人ひとりが自立(自律)した真のプロフェッショナルにならざるを得ない。本連載では、そのために必要なマインド・スキル・働き方について、同書の中から抜粋してお届けする。

アウトプット力を高めるためにおすすめの、1日1回のエクササイズPhoto: Adobe Stock

仕事は、ユニークなアウトプットの競争

 日本の詰め込み教育はインプットが中心です。全員同じ教科書を使って勉強し、同じテストを受け、テストでは決められた形でアウトプットすることが求められます。

 もちろん、基礎学力を養う上で詰め込み教育は重要ですが、それだけではユニークなアウトプットは出せません。

 私が幼少期を過ごしたアメリカの教育は、ユニークなアウトプットができる学生を育てるためのものでした。教科書を使うことは少なく、詩を書いたり、自分で物語をつくったり、それを発表したりすることが中心でした。

 また、理科の課題では全員に異なるテーマが渡され、自分で仮説を設定して実験し、検証する必要があります。体育では、優秀な生徒が種目ごとに選出されてクラス代表として学校のオリンピックに参加します。

 一方で、詰め込みを一切しないため、基礎学力は日本の学生と比較するとかなり低く、小学校高学年でも掛け算ができない生徒がたくさんいました。したがって、「アメリカの教育は素晴らしいので全面的に真似しましょう」と言うつもりはありません。

 ここで強調したいのは、グローバルで生きていくためには、幼少期からユニークなアウトプットをするトレーニングを受けてきた人たちと競わなければいけないということです。

アウトプット力を高めるエクササイズ

 ユニークなアウトプットをするための練習として私がお勧めするのは、毎日1回、日本経済新聞の記事に対して自分の意見をツイートするというものです。

 ポイントは、自分の関心がある内容に対して、自分ならこう考える、こうすべきではないか、という内容を発信することです。難しく考える必要はなく、内容ではなく毎日タイムリーに発信し続けることを心掛けましょう。

 最初は自分の意見を1行書くだけでも大変ですが、1か月も続けるとアウトプットすることがだんだん習慣化されてきます。

 アウトプットすることが習慣化されると、今日はどのようなニュースがあるかを自分から探し始めるようになります。

 日本経済新聞だけではなく、他のニュースサイトや日々街中で見聞きしたことにも注意を払うようになり、次第にインプットの工夫もできるようになります

 これは、居酒屋や喫茶店で同僚と会話するのと同じように感じるかもしれませんが、記事に書かれている事実や記者の意見に対して、定期的に自分の意見を発信するのは簡単なことではありません。

ポジションを取る練習を積む

 例えば、日本経済新聞の記事で「熱帯雨林の未来都市――動くインドネシア新首都『ヌサンタラ』構想」という記事があったとします。首都移転のメリットに関する解説と、国民による反対運動について述べられています。

 素早くユニークなアウトプットを出すための基本は、自分の態度を明らかにすることです。コンサルティング用語ではこれを「ポジションを取る」という言い方をします。

 首都移転について賛成なのか反対なのか、賛成であればどのような点がいいのか、さらに良くするためには何ができるのか。反対であれば何が悪いのか、ではどうすればいいのか、などについてツイートしましょう。

 インドネシアのことについて全く知らなくても問題ありません。

 日本で首都移転を考える必要がないのか。他の先進国を見ると主要機能は複数の都市に分散されているが、日本はなぜそれができなかったのか。直下型地震が起きたときはどうするのか。日本で首都移転をする場合、どのような手順で進めればいいのか、などについて独自に調べてツイートすれば、次のようなアウトプットはすぐにできます。

「インドネシアで首都移転の計画があるそうです。先進国の多くは首都機能を分散させていることが多いようです。日本は自然災害も多いことから首都機能を移転したほうが良さそうですが、過去の取り組みは抵抗勢力が多く実現していません。民間企業の本社を地方に移転することから検討したらどうでしょうか」

 ポジションを取る練習を積むことで、会議などで誰かが発言したときに、常に疑問を持つ態度で考えることができるようになります。疑問を持った上で、賛成であればさらに良くするための意見を、反対であれば反対の理由と対案を述べるようにしましょう。

 注意すべき点は、対案のない反対をしないということです。反対するのであれば、必ず対案を述べましょう。単なる反対は、何の価値も生まない評論家の意見と同じです。

坂田幸樹(さかた・こうき)
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)、IGPIシンガポール取締役CEO
早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト&ヤングに入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。
2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。
現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
IGPIグループを日本発のグローバルファームにすることが人生の目標。
細谷功氏との共著書に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(ダイヤモンド社)がある。
超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社、2022年6月29日発売)が初の単著。