「存在しているだけで価値がある」は理解できるが
実感値を伴う経験がないと焦ってしまう

3人 もう一人のゲスト、「クルミドコーヒー」の影山知明氏が後半に登場 Photo by HK

 休憩を挟んで後半から、もう1人のゲストである影山氏が対話に参加。影山氏は、東京大学法学部卒業後に、著名なコンサル会社・マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。その後、ベンチャーキャピタルの創業に携わった後、出身地である西国分寺に「クルミドコーヒー」を開業し、人気を博す。影山氏の活動は、書籍の出版や地域通貨の発行など多岐にわたる。

 影山氏は中学の頃から、田原氏が司会を務める討論番組「朝まで生テレビ」のファンだという。影山氏が経営するカフェでは、「朝ナマ」ならぬ「朝モヤ」という対話会を開いているという。テーマを決めてディスカッションを行うが、わかった、すっきりした、ではなく、皆、余計もやもやして帰るからだという。

「対話には、『説得的な対話』と『支援的な対話』があると思う。どちらがより正しいか、相手を説得できるか、場合によっては論破できるか、という言葉の交わし方がある一方で、対話の中から相手の思いを引き出してあげるとか、逆に引き出してもらうとか、そういった言葉の交わし方もあるんだと思う。言葉になっていなかった思いが、やりとりの中で言葉になっていく。そういう場がつくれたらいいなと思って。カフェというのは本来、そういう場だと思っている」(影山氏)

3人Photo by HK

「これまでの皆さんのお話を聞いていて感じたのは、『存在意義』という言葉の難しさ。意義がなければ存在してはいけないような言葉でもある。でも、意義がなかったとしても、機能性や利用価値がなかったとしても、その存在においてその人は尊ければ、それでいいのではないかと思う」と影山氏は続ける。

「かつては、そんなことを大仰に言わなくとも、家庭に帰れば自然にそういうことを感じることができたし、地元で友人たちとつるんで話していれば、そこに自分の居場所を感じることができた。自分が何者であろうと、何かができようができまいが、『自分は自分のままでいいんだ』と思える人間関係があった。でも今はそれを感じる場がすっかり減ってしまった。だから、自分は何者であり、どんな存在意義があるのかを、考え込んでしまう。それを示すことができなければ、この世界に自分の居場所がないように思えてしまう」(影山氏)

「だからこそ、声をそろえて『あなたはあなたのままでいい』と言い合える、そのような人間関係に満たされた土壌のあるカフェや街になるといいなと思っている。そうした安心感みたいなものが、今、社会で求められていることではないかと感じた」。この影山氏の言葉に、参加者の1人が手を挙げる。

「今の影山さんのお話に近いかもしれませんが、就活をしていて、友人たちと『何者かにならないといけないよね』という話をよくする。その際にゼミの先生が言ってくれたのは、『何者かである必要はない。存在しているだけで価値がある』ということ。でも、理解はできるけど、実感値を伴う経験がないと、やっぱり『何かしないと』『行動しなければ』と焦り、生きづらさを感じてしまう。実感値というのはどうすれば得られるかがわからない」

 それに対し、影山氏がこう答える。「たしかに、自分で自分の存在価値を認識することは難しい。だから、それを言ってくれる人、感じさせてくれる人の存在が重要。でも、周囲を見渡したときに、自分の存在をそういうふうに受け止めてくれる人が残念ながらいないという人も多いだろう。だから僕がおすすめしたいのは、まずは、あなたたちが、別の人の存在を受け止める立場になってあげてほしい。あなたはあなたのままでいいと。そこから循環が始まっていくんだと思う」

 別の参加者がこの言葉に反応する。