順当に人生を歩んでいる自分は
実はつまらない人間なのではないだろうか

「生きるためには働かないといけないと思っていて、でも、本当にやりたいのは、仕事でも結婚でも出産でもない。将来どうなるかはわからないけれど今の気持ちとしては、これから出会う『ポッと出』の人と結婚するなんて考えられない。長い付き合いの友人がいて、自分の心の支えはそこにある。本当に自分がしたいことは、友だちと日々を支え合って、夜通しアマプラ(アマゾンプライム)を見たり、鍋をしたり、そういうことをやっていたいのだけれど、それにもお金がいる。ある程度の生活水準がないとそれさえもできない。そう考えたら絶望してしまって、どうしたらいいのかを悩んでいる。『ありたい私』って何なんだろうって。大学の同級生は意識が高い人たちばかりで、こうした漠然とした悩みなんて話せない」

「今、20歳だけど、友人たちに彼氏ができ始め、ふと疑問に思って、『何で彼氏って大事なの?』と聞いたことがあるんです。すると、『相手の揺るがない一番になれるから』と答えていて。揺るぐかどうかは別として(一同笑)。一方で、親を見ていると、お互いがパートナーとして存在しているところに結婚の意義があるのかもしれないと思う部分もある。私は今、友だちがすごく大事だけれど、もしその友だちが結婚して、子どもができて、旦那や子どもを優先するというのは何も不自然ではないことはわかるし、そうあるべきだとも思う。でも、私の『大事』ってどこにあればいいのだろうと、漠然と思うときがある。でも今は、本当に楽しいと思えるのは、友だちといるとき」

「この前ラジオを聴いていたら、『自分ができることと、周囲や社会から求められることが一致するのは幸せなことだ』という話をしていて、なるほどと思った。『やりたいこと』と『できること』が違うこともある。でも、自分がやりたいことと、今の仕事でやっていることが違ったとしても、それが人から求められ、自分のできることなのであれば、『やりたいことではない幸せ』もあるんだなと思った」

田原総一朗氏と坂根千里氏Photo by HK

「多くの企業は、社員が代替可能なものと考えているのではないか。使い捨てだと、労働者は疲弊し、苦しい思いをする。犠牲の上に成り立つ経済は違う気がする。そのような社会はいやだなと思う」

「いわゆる『用意されたレール』を外れて自分の道を進んでいる人の話を聞くと、大変だろうけど素敵な経験を送っているなあと、楽しんで聞けるが、それが逆に自分にとってはコンプレックスになっていることもある。用意されたレールを進んでいる自分はつまらない人間なんだなあと思ってしまったりするので。ある意味、順当に進んでいるのかもしれないし、ぜいたくだと思われるかもしれないけれど、『うまくいっているコンプレックス』というのは正直、ある」

 モデレーターから田原氏へ、若い頃の葛藤について聞かれると、田原氏はこう述べた。

「若い時は、自分が生きている意義は何だろうと、ずっと考えていた。でも、本当は意義なんてないんだよね。だって生きているのは偶然なんだから。自分が生きている意義を見つけるのは、ある意味、むちゃくちゃなことなんだ。だから意義なんてものは強引に見つけてくるしかない。そのむちゃくちゃで強引なことをするのが、生きていくということ」

 戦争を体験し、そして膨大な数の人と出会い、その生と死を見てきた田原氏の言葉には、重みと説得力があり、ゲストも参加者たちも、深くうなずいた。参加者の1人が手を挙げる。

「まさに僕は高校生ぐらいまで優等生キャラで、『うまくいっているコンプレックス』があった。だから、田原さんの今のお話はとても共感した。意義が先行してしまうと、『社会が求める私』にそれこそなってしまう。だから、強引に見つける。自分で自分を信じ込む。悩んだり選択したりを繰り返した後、ふと、うしろを振り返ったときに感じるものが、存在意義なんじゃないだろうか」