「傷つきたくない」という強い防衛本能

私は潜在的に、「自分はできる」と思い込んでいた。
いや、「自分よりもできないやつがいる」という事実を盾にして、自分を守ろうとして
いた。
その呪いが、いつかかったのかはわからない。
あるいは、小学生の頃、仲間に入れてもらえなかったからかもしれない。
あるいは、高校生の頃、受験に成功したからかもしれない。
入りたかった大学に合格できたから。
いい成績をとれたから。
就活で周りに出遅れているから。
仕事ができたから。
ミスをしたから。
私たちは日々、いろいろな経験をしている。前に進み、また、後ろに下がる。
傷ついては回復し、回復したかと思ったら、また、傷つく。
その繰り返し。
日々ぐるぐると考えるうちに、自信がなくなっていって、とにかく、何も考えたくなくなる。逃げたくなる。
守りたいと、思う。自分自身を。
「傷つきたくない」という強い防衛本能によって、あるいは、呪いをかけてしまっているのかもしれない。

「私はできる」という強い呪いを。
「私は実力がある」と。
「私は才能がある」と。
「私はいつか、ちゃんと芽が出る人間だ」と。「今は調子が悪いだけ」だと。
だってその呪いをかけていれば、事実と向き合わなくてもすむからだ。
「私はできる」という呪いをさらに強くするために、自分よりもできないやつを探し、そして、「私はマシだ」と思い込もうとする。

けれども、人と比べ、比較し、「私の方がマシ」と言い続ける人生の、何が面白いのだろう。

人生は、ポーカーゲームなんかじゃない。
手持ちのカードを増やし、カードを切り、勝ったか負けたかだけで判断するのが、人生ではないのだ。

呪いを、解こう。
真正面から自分を見つめ、誰とも比較せずに生きていけたなら、どんなにいいだろう?
心の底から「自分が好きだ」と言い、「自分を誇りに思う」と言えることができたなら、どんなに、素敵だろうかと、最近、そればかり考えている。

「私はできない」と思うこと。
まずは、そこからなのかもしれない。
誰と比較するでもなく、勝った負けたで判断するのでもなく、私は、私のことをどう思うか。
私は、私を信頼できているだろうか。
私は、人の役に立てているだろうか。
常に自分と向き合い、自分を律し、自分を叩く。
見栄でもプライドでもない、「矜持」を培うためには、まずは、そこからなのだ、きっと。

呪いをかけてしまったのが私自身なら、呪いを解けるのもまた、この世に私しか存在しないのだ。

なぜ「私は仕事ができる」という人ほど生きづらくなるのか?川代紗生(かわしろ・さき)
1992年、東京都生まれ。早稲田大学国際教養学部卒。
2014年からWEB天狼院書店で書き始めたブログ「川代ノート」が人気を得る。
「福岡天狼院」店長時代にレシピを考案したカフェメニュー「元彼が好きだったバターチキンカレー」がヒットし、天狼院書店の看板メニューに。
メニュー告知用に書いた記事がバズを起こし、2021年2月、テレビ朝日系『激レアさんを連れてきた。』に取り上げられた。
現在はフリーランスライターとしても活動中。
私の居場所が見つからない。』(ダイヤモンド社)がデビュー作。