多くの日本人は気づいていなかったが、2000年以降のアメリカでこの100年起こっていなかった異変が進行していた。発明王・エジソンが興した、決して沈むことがなかったアメリカの魂と言える会社の一社、ゼネラル・エレクトリック(GE)がみるみるその企業価値を失ってしまったのだ。同社が秘密主義であることもあり、その理由はビジネス界の謎であった。ビル・ゲイツも「大きく成功した企業がなぜ失敗するのかが知りたかった」と語っている。その秘密を20数年にわたって追い続けてきたウォール・ストリート・ジャーナルの記者が暴露したのが本書『GE帝国盛衰史 「最強企業」だった組織はどこで間違えたのか』(ダイヤモンド社刊)だ。電機、重工業業界のリーダー企業だったこともあり、常に日本企業のお手本だった巨大企業の内部で何が起きていたのか? 株価の下落を受けて、もはやコングロマリット経営は、機能しないのではという疑いが生まれるのは当然のことだった。(訳:御立英史)
ジャック・ウェルチの叱責
株価の急降下に追い討ちをかけるように、ウェルチがCNBCの生番組に出演し、イメルトを痛烈に批判した。GEへの信頼が揺らぎはじめていた投資家を、崖から突き落としたのである。
「ジェフはしくじった」とウェルチは言った。「たった3週間前に約束したことを果たせなかったのだから、信用問題だ。悠長に構えている場合じゃない」
ウェルチのメッセージは、はっきりしていた。こんなことを二度と起こすな。安定した収益を確保するために必要なことを確実に行え。
「もう一度約束を果たさないようなことがあれば、どれほどショックを受けるか想像もできない。銃を一発、見舞ってやりたくなるかも」と物騒なことまでウェルチは言った。「とにかく売上げを上げることだ。12%成長させると約束して、12%成長させることだ」
イメルトは判断を誤ったと考える人にとっては、尊敬してやまない無謬のCEOが、自分たちと同じ見解を表明してくれたかたちになった。イメルトは表立ってはこの批判に反論せず、ウェルチものちに発言を撤回しようとした。だが、一度口から出た言葉をのみ込むことはできない。
ウェルチの叱責は、家父長的色彩の濃い酷評だった。イメルトが重大なミスを犯し、投資家に安定した配当を提供するという神聖な使命を果たせなかった、というメッセージは、末端の工場労働者にも届いた。頻繁なメディア露出によって、どんな難局も乗り切る全能のオーラをまとっていたイメルトが、突然、輝きを失ってしまった。
業績不振とウェルチの発言をきっかけに、ウェルチの時代には考えられなかったことだが、ウォール街でGE解体論がささやかれはじめた。何十年も崇拝されてきたGEの根本的構造に、疑いの目が向けられたのだ。ある意味、ビジネスの現場ではみんな知っていたことに、ウォール街が遅ればせながら気づいたということでもある。
それは、GEは時代遅れの見苦しいコングロマリット構造に頼って、事業を行うことを許されている、という事実だ。許されてきたのは、要するにそれがGEだからであり、投資家を満足させる結果を出していたからだ。しかし、数字が悪くなったいま、投資家たちは、GEだからという理由でいつまでも認めてよいのか、という疑問を持ちはじめた。
イメルトにとって悔しいことに、その疑問は株価に表れていた。株価は下がり続け、数週間後には30ドルを割ってしまった。