「人前で話すのが苦手」「プレゼンで緊張してしまう」「雑談も苦手」
そんなアナタが参考にしたいのが、TBSの井上貴博アナウンサーの著書『伝わるチカラ』(ダイヤモンド社)です。アナウンサー歴15年で試行錯誤しながら実践してきた52のことを初公開。「地味で華がない」ことを自認する井上アナが、情報・報道番組の最前線で培ってきた「伝わらない」が「伝わる」に変わるテクニックが満載です。人前で話すコツ、会話が盛り上がるテクなど、仕事のプレゼンからプライベートの雑談まで即役立つノウハウ、さらに失敗や葛藤についても赤裸々に語ります。
※本稿は、『伝わるチカラ』より一部を抜粋・編集したものです。
自分を主語にして話す
TBSアナウンサー
1984年東京生まれ。慶應義塾幼稚舎、慶應義塾高校を経て、慶應義塾大学経済学部に進学。2007年TBSテレビに入社。以来、情報・報道番組を中心に担当。2010年1月より『みのもんたの朝ズバッ!』でニュース・取材キャスターを務め、みのもんた不在時には総合司会を代行。2013年11月、『朝ズバッ!』リニューアルおよび、初代総合司会を務めたみのもんたが降板したことにともない、2代目総合司会に就任。2017年4月から、『Nスタ』平日版のメインキャスターを担当、2022年4月には第30回橋田賞受賞。同年同月から自身初の冠ラジオ番組『井上貴博 土曜日の「あ」』がスタート。同年5月、初の著書『伝わるチカラ』刊行。
コロナ禍以降、私が特に意識するようになったのは「意見を言うときには、主語を自分にして話す」ということです。テレビの放送では「国民は」「消費者は」「若者は」「私たちの世代は」など、ついつい主語を大きなくくりにして発言しがちです。
会社の会議でも、「消費者は」「世間では」「若者は」などと、大きな主語を借りて自分の意見を語ろうとするケースが多いのではないでしょうか。それは、主語を大きなくくりにすると“逃げ道”ができるからです。
「国民はそう考えているんじゃないかと思ったんです」「私の想像が間違っていたのかもしれません」と、あとから、いくらでも言い訳ができます。けれども、主語を大きなくくりにして語っていると、“当事者意識”が薄れてしまいます。
覚悟を持って自分の意見を発信するからこそ伝わる
当事者意識のなさが聞き手に伝わり、心のなかで「覚悟がない人」という漠然とした印象を抱かれてしまいます。
そもそも「国民」といっても1人ひとり考え方が違いますし、同じ世代だからといって同じような意見を持っているとは限りません。
私自身も視聴者の考えを知ろうと努力はしていますが、どんなに努力しても、視聴者の考えをすべて把握するのは不可能です。だから、何かを主張するときには、勝手に大きなくくりを主語にするのではなく、自分を主語にしようと心がけているのです。
他人事にせず、当事者意識を持つことが大切
私は、「われわれ国民は」「消費者は」などと言わないと決めています。迷いも含めて、自分を主語にした意見を発信することを心がけています。
例えば、「私はビールが好きです」と言った翌日に「ごめんなさい。昨日はビールが好きと申し上げたんですけど、やっぱりあんまり好きじゃなかったです」と前言撤回する。そんなことがあってもいい、と考えています。
自分を主語にするのは、責任がともないます。「ほかの人と意見がずれていたらどうしよう」「批判されたらどうしよう」と不安にもなります。
リスクのない言葉では思いは伝わらない
特に全国放送のテレビで「私」を主語にするのは、かなりリスクの高い行為ともいえます。「私はこう思います」と言うと、「アナウンサーの意見なんてどうでもいい」「あなたの意見は間違っている」というお叱りの声をいただくことも多々あります。
発言をしたことで、次以降の仕事がやりにくくなるかもしれません。それでも、どこかで「そのときはそのときだ」と覚悟を決めて報道の現場に臨んでいる自分がいます。
リスクを背負ってでも、自分の言葉で話したいという気持ちが強いのです。リスクのない言葉では自分の思いは伝わりません。覚悟を持って発する言葉だからこそ、人に伝わるのだと思っています。要は、自分が傷つく覚悟があるのかどうかです。
※本稿は、『伝わるチカラ』より一部を抜粋・編集したものです。