コロナ禍のリモートワークなど生活スタイルの変化により注目されたのが、資産形成に対する関心が高まったこと。特に、20~30代の若い人たちの間で、つみたてNISAの口座開設が急増した。そんな状況の中、つみたてNISA本の決定版ともいえる『最新版 つみたてNISAはこの9本から選びなさい』(中野晴啓著、ダイヤモンド社)が3月16日に発売。本連載では、つみたてNISAを利用して長期投資や資産形成をしてみたいという人に向けて、失敗しないつみたてNISAの賢い選び方・買い方について、同書から抜粋して公開する。「つみたてNISAってなに?」という投資ビギナーの人でも大丈夫。基本的なところからわかりやすくお伝えしていくので、ぜひ、お付き合いください。

「信託財産留保額」はコストであってコストではないPhoto: Adobe Stock

信託財産留保額は、手数料ではない

 では、次に解約時にかかる手数料を見ていきましょう。「信託財産留保額」です。

 基本的に投資信託は、購入する際に購入時手数料が取られますが、「解約手数料」を取るものはほとんどありません。数少ない例外としては、長期公社債投信という公社債型投資信託の中に、解約手数料を取るものもあるというくらいでしょう。

 ちなみに同ファンドは、超低金利の長期化によってリターンがほとんど期待できないほど低いものになったため、今では全く人気のない商品になっています。

 現時点で解約手数料を取る投資信託は、このようなタイプのみですが、そういうと、「いや解約時に『信託財産留保額』という手数料を取るファンドが結構あるんだけど……」という反論が返ってきそうです。

 確かに解約時にかかる手数料として「信託財産留保額」というものがありますが、厳密に言うと、信託財産留保額は手数料ではありません。購入時手数料や解約手数料などの手数料は、すべて販売金融機関が受け取るものです。つまり、投資信託の保有者は損をし、販売金融機関は得をするという構図です。

 これに対して信託財産留保額は、販売金融機関が受け取るものではありません

 もしあなたが投資信託を解約した場合、その際に支払った信託財産留保額は、あなたが解約した後も投資信託を保有し続ける投資家に残されるのです。

信託財産の現金化に必要なコストは、
ファンドを保有している人たちが負担する

 もう少し具体的に説明しましょう。

 あなたが保有している投資信託を解約しようとします。実際に、解約注文を出して、それが執行されました。

「この投資信託を100口分解約してください」というオーダーが、販売金融機関から投信運用会社に伝えられます。すると投信運用会社は投資信託に組み入れられている株式や債券などの一部を市場で売却し、100口分の解約に必要な現金を作ります。

 投資信託に組み入れられた株式や債券を売却するにあたって、投信運用会社は、その注文を信託銀行に出します。当然、そこで信託銀行は、投信運用会社から来た売却注文を証券会社につなぐわけですが、ここでいくばくかの取引手数料が発生します。

 問題は、その手数料を誰が負担するのか、ということです。

 投資信託では、組入資産の売買にかかったコストは、信託財産から支払うことになっています。つまり、投資信託に解約が生じて、信託財産の一部を現金化する際に必要なコストは、解約を申し出た投資家ではなく、現時点でファンドを保有している人たちが負担することになってしまいます。

 そこで投資信託から出ていく人にも、解約にかかったコストを負担してもらおうということで設けられたのが、信託財産留保額という制度なのです。

信託財産留保額は、長期保有を促す意味では
有用なしくみ

 信託財産留保額は販売金融機関が受け取っているのではありません。投資信託を解約した元投資家から徴収したものを、投資信託の信託財産に残しておくのです。

 ですから、自分が解約する際にはもちろん支払いますが、投資信託を保有している間は、他の人が解約したことで受け取っている面もありますから、有利か不利かというと、そのどちらでもない、中立要因といってもいいでしょう。

 とはいえ、やはり表層的に見れば、投資家にとっては「コストのようなもの」と感じるのは事実のようで、これが、投資信託の安易な解約を抑える力として作用しているのです。

 信託財産留保額の料率は、通常0・1%~0・3%程度と極めて低いものですが、その存在に気がつくと、誰もやはり負担したいと思わないからなのでしょう。信託財産留保額が0%という投資信託もあります。

 したがって、これは投資信託を運用している投信運用会社の、投資家や投資信託に対する哲学というか、スタンスというものが表れるといってもいいでしょう。

 信託財産留保額は、お互いに負担しあうものであり、むしろ長期保有を促すうえでは有用なしくみだと私は考えています。

中野晴啓(なかの・はるひろ)
セゾン投信代表取締役会長CEO
一般社団法人投資信託協会副会長、公益財団法人セゾン文化財団理事
1987年明治大学商学部卒業、クレディセゾン入社。2006年セゾン投信を設立。2020年6月より現職。つみたてで、コツコツと資産をふやす長期投資を提言。国際分散型投資信託2本を15年以上運用し、個人の長期資産形成を支えている。客観的な定量評価を行う「R&Iファンド大賞」最優秀ファンド賞を9年連続受賞。口座開設数16万人、預かり資産5000億円を突破。
主な著書に『最新版 投資信託はこの9本から選びなさい』『投資信託はこうして買いなさい』(以上、ダイヤモンド社)他多数。