「運動」の驚くべき“癒し効果”にスポットを当てた研究が、今、世界的に注目を集めている。運動すると……「ストレスから守られる」「抗うつ薬に匹敵する“うつ改善効果”が得られる」「レジリエンス因子が増え、不安に強くなる」「遺伝と同レベルの認知症リスクを解消できる」「自然界で2番目に強い“睡眠導入剤”が体内で作られる」など、その驚きの研究結果をまとめたのが“運動×神経科学”の第一人者であるジェニファー・ハイズ博士だ。彼女の研究は、ニューヨーク・タイムズ、BBC、CNN、ハフポストなど、多数の国際的メディアに取り上げられて話題を呼んでいる。その内容を一般向けにわかりやすくまとめた初の著書の邦訳版『うつは運動で消える 神経科学が解き明かした「心の不調」のリセット法』から、第2章「体を動かすと、不安・パニックから解放される」の内容の一部を特別に公開する。(初出:2022年9月5日)
「パニック発作」に運動がいいといえる理由
パニック発作を起こしやすい人にとって、強度の高い運動のメリットは、軽い運動のメリットをはるかに上回ります。
なぜか? 強度の高い運動は、彼らに必要な暴露療法になるからです。強度の高い運動をすることで、動悸や息切れなど、パニック障害の人が最も恐れている症状にさらされることになります。
実際に、新たな研究から、パニック障害の人は、強度の高いインターバルトレーニング(HIIT)に耐えることができ、恩恵が得られることがわかっています。
研究者たちは、次のような構成の少量のHIITメニューを使用しました。
・強度の高い運動を1分間(頑張って動く)
・強度の低い運動を1分間(楽に動く)
計算したところ、このHIITメニューをわずか20分行うだけで、暴露療法のセッションを10回受けたのと同じことになります。素晴らしい効率の良さですよね。
わずか12日間の運動で、パニック発作が大幅改善
この研究では、HIITメニューは1日おきに12日間続けられました。強度の高い運動時の患者の心拍数は、最大心拍数の77~95パーセントで、これは激しい運動とみなされます。
12日間の期間終了までに、患者は合計60回の暴露療法セッションを受けたことになります。このような集中的な治療により、わずか12日間で患者のパニック発作の重症度が40パーセント低下したことは驚くことではありません。まさに体を動かすと、心を癒やせるのです。
(本原稿は、ジェニファー・ハイズ著、鹿田昌美訳『うつは運動で消える ~神経科学が解き明かした「心の不調」のリセット法』の内容を抜粋・編集したものです)
世界トップのキネシオロジー(運動科学)学科を擁するカナダ・マクマスター大学のニューロフィットラボのディレクターであり、運動と神経科学研究の第一人者。主に、身体運動がメンタルヘルスや認知能力にもたらす影響について研究し、受賞多数。その研究は、ニューヨーク・タイムズでの特集をはじめ、CNN、NBC、BBC、ハフポスト、CBSなど、国際的メディアの注目を集めている。初の著書の邦訳版『うつは運動で消える』が2022年9月7日に発売。