宇都宮~盛岡間の時速360キロ化で
鉄道貨物撤退論が変わる可能性

 前述の北海道経済連合会は、2021年にも「物流プロジェクトチーム」を設立しているが、ここでは「北海道と本州を結ぶ『全輸送力』の維持・強靭化」のために鉄道貨物の存続さらには機能向上を求めるという、前回とは異なる結論になったのである。

 報告書は「現在、青函ルートにおいては、『青函共用走行区間』と『並行在来線(函館・長万部間)』における貨物輸送の在り方に関する議論がなされている。これらは、個別に議論、報道されることが多いため、別々の問題としてとらえられがちであるが(略)北海道・本州間の輸送においては、双方が同時に機能する必要がある」と指摘。

 青函共用問題についても「『旅客輸送のニーズ』をベースにしつつも『貨物輸送のニーズ』も含め、双方から十分な議論がなされるべきである」として、新幹線を優先する議論に批判的だ。

 結局、この問題の結論は北海道新幹線の所要時間短縮を、どの程度、重視するかによって変わってくる。時速160キロから時速260キロに引き上げた場合の短縮効果は約15分で、これにより東京~札幌間4時間半を実現しようというのが貨物撤退論のキモである。

 国交省が2012年に公表した試算によると、盛岡以北を最高速度時速260キロ、うち共用区間は時速140キロで走行した場合の東京~札幌間の所要時間は5時間超。一方、共用区間を含む盛岡~札幌間を時速320キロに引き上げた場合、東京~札幌間の所要時間は4時間33分となる。

 実際、2019年に新函館北斗~札幌間、盛岡~新青森間の最高速度引き上げが決定したが、共用区間は依然として時速160キロ止まりで、所要時間は4時間48分程度というインパクトに欠ける数字となる。

 ところが思わぬ形で4時間半は達成できそうな情勢だ。当時は想定されていなかった、JR東日本が目指す東北新幹線宇都宮~盛岡間の時速360キロ化である。試験車両「ALFA-X」による走行試験が順調に進んでおり、札幌延伸に合わせて高速化されるとみられる。

 時速360キロ化による時間短縮は約15分と推測されており、共用区間を時速160キロに制限してもなお目標の4時間30分程度を達成できる計算だ。そうなると貨物撤退の大義名分は無くなってしまう。

 いや、貨物を廃止することで4時間15分、さらには4時間切りも可能になる、実現すべしという考えもあるかもしれない。だが、物事にはバランスがある。共用を前提としたすれ違い減速システムの実用化など現実的な範囲での高速化では不足なのか。不可逆的な鉄道貨物の廃止までしなければならないことなのだろうか。

 一方で貨物側からの歩み寄りの可能性も残されている。JR貨物の農産品輸送は季節ごとの需要の変動が大きく、青函トンネルを走行する貨物列車は定期列車40本に対し臨時列車が11本設定されている。前述の時速210キロ運転は、この臨時列車が運行されない時期に行われているのだ。

 また上りと下りで需要が大きく異なるため、空コンテナの回送が多く、輸送コストを押し上げている。ピーク時の料金を値上げするなど、需要をコントロールすることで経営効率の向上が可能との指摘もある。需要が平準化されれば新幹線と貨物のすみ分けがよりスムーズになるはずだ。

 新幹線も貨物列車も、どちらも北海道にとって必要な存在であり、それぞれ異なる使命がある。どちらにも利点と欠点はあるが、最適解はその中間にある。現状を追認するのではなく、その先を見据えた議論が求められる。