「あれ? いま何しようとしてたんだっけ?」「ほら、あの人、名前なんていうんだっけ?」「昨日の晩ごはん、何食べんたんだっけ?」……若い頃は気にならなかったのに、いつの頃からか、もの忘れが激しくなってきた。「ちょっと忘れた」というレベルではなく、40代以降ともなれば「しょっちゅう忘れてしまう」「名前が出てこない」のが、もう当たり前。それもこれも「年をとったせいだ」と思うかもしれない。けれど、ちょっと待った! それは、まったくの勘違いかもしれない……。
そこで参考にしたいのが、認知症患者と向き合ってきた医師・松原英多氏の著書『91歳の現役医師がやっている 一生ボケない習慣』(ダイヤモンド社)だ。
本書は、若い人はもちろん高齢者でも、「これならできそう」「続けられそう」と思えて、何歳からでも脳が若返る秘訣を明かした1冊。本稿では、本書より一部を抜粋・編集し、脳の衰えを感じている人が陥りがちな勘違いと長生きしても脳が老けない方法を解き明かす。
運動が続かない人の最初の一歩
【前回】からの続き 脳の血流を促進させたいけれど、スクワットなどの運動は続かない……。だからといって、打つ手がないわけではありません。まずは、立つことから始めればいいのです。
じっと座り続けていると、下半身の筋肉はずっと活動停止の状態です。もちろん、前述した「ミルキング・アクション」もできません。座り続ける時間が長ければ長いほど、下半身の筋肉とそのポンプ機能は低下してしまいます。座りっ放しだと血流の低下が起こり、脳の血の巡りも悪くなっているのです。
WHO(世界保健機関)は2011年に「座って動かない生活は、肥満、糖尿病、高血圧、脳血管疾患、そして認知症を誘発する」と警告しています。研究者のなかには、「座りっ放しはタバコよりも悪い」とか「Sitting is killing you(座っていることがあなたを殺す)」と警鐘を鳴らす人さえいます。
座りっぱなしで死に至ることも
『91歳の現役医師がやっている 一生ボケない習慣』で後述するように、血糖値が高くなりすぎる「糖尿病」は、認知症のリスクを高めます。1211人のデータを分析した明治安田厚生事業団体力医学研究所の調査では、糖尿病を有する確率は、1日9時間以上座っていると、座っている時間が1日7時間未満の人と比べて2.5倍に上昇するとされています(出典:甲斐ら。第73回日本体力医学会大会[2018年])。
座りっ放しは「エコノミークラス症候群」のリスクも高めます(正式名称は、「急性肺血栓塞栓症」といいます)。旅客機の国際線のエコノミークラスのような狭い場所で長時間座りっ放しで動かないでいると、血流が悪化。血液がドロドロになり、「血栓」という血のかたまりができます。
その血栓が、歩行などをきっかけに血流に乗って移動し、肺の血管で詰まってしまうのが、エコノミークラス症候群なのです。エコノミークラスに乗らなくても、自然災害時の車中泊や避難所暮らしでも起こりやすく、死を招くケースもありますから注意が必要です。
座っている時間が世界一長い日本人
実は、日本人は座っている時間が、世界一長いという調査結果があります。世界の主要20ヵ国・地域を調べたオーストラリア・シドニー大学などの研究によると、日本人が平日に座っている時間は1日7時間で世界一長いそうなのです。これは他の国・地域の平均値よりも2時間も長いということです(Bauman A et al.,Am J Prev Med.2011 Aug;41[2]:228-235)。
高齢者で怖いのは、テレビの前に座って動かないような生活を続けること。ネットに慣れ親しんでいる若い年齢層ではテレビ離れが進んでいますが、テレビが娯楽の王様だった時代を長く過ごしてきた高齢者の多くには、テレビを視聴する習慣が根づいています。
ときどき立ち上がることを意識する
NHK放送文化研究所の「2020年国民生活時間調査」によると、30代以降は年代を追うにつれてテレビの視聴時間が伸びており、70歳以上は平日で1日平均約5時間半、土日では1日5時間半から6時間近くテレビを見ているというデータが出ています。起きている時間の3分の1ほどは、テレビを見ている計算です。
私の患者さんのご家族からも、「お父さんは日中、テレビの前から動かないんです。気づくと居眠りをしていることも多いんですよ」といった話をよく伺います。テレビから流れるランダムな雑音が心地よいBGMとなり、眠気を誘うのはよくあることです。
※本稿は、『91歳の現役医師がやっている 一生ボケない習慣』より一部を抜粋・編集したものです。本書には、脳が若返るメソッドがたくさん掲載されています。ぜひチェックしてみてください!