「あれ? いま何しようとしてたんだっけ?」「ほら、あの人、名前なんていうんだっけ?」「昨日の晩ごはん、何食べんたんだっけ?」……若い頃は気にならなかったのに、いつの頃からか、もの忘れが激しくなってきた。「ちょっと忘れた」というレベルではなく、40代以降ともなれば「しょっちゅう忘れてしまう」「名前が出てこない」のが、もう当たり前。それもこれも「年をとったせいだ」と思うかもしれない。けれど、ちょっと待った! それは、まったくの勘違いかもしれない……。
そこで参考にしたいのが、認知症患者と向き合ってきた医師・松原英多氏の著書『91歳の現役医師がやっている 一生ボケない習慣』(ダイヤモンド社)だ。
本書は、若い人はもちろん高齢者でも、「これならできそう」「続けられそう」と思えて、何歳からでも脳が若返る秘訣を明かした1冊。本稿では、本書より一部を抜粋・編集し、脳の衰えを感じている人が陥りがちな勘違いと長生きしても脳が老けない方法を解き明かす。
下半身の大きな筋肉を動かす効果
【前回】からの続き 脳の血液循環をよくするためには、やはり運動も効果的です。かつて、認知症防止にクルミなどを使って、指先から脳を刺激する体操が盛んに紹介されたこともありました。下半身が不自由で動かせない人は、それもいいでしょうが、元気に動かせるなら、指先よりも足腰を動かしたほうが大きな効果を得られます。
なぜなら、身体の筋肉のおよそ3分の2は、下半身に集まっているからです。お尻、太もも、ふくらはぎなどには、大きくて立派な筋肉がたくさんついています。お尻の「大臀筋(だいでんきん)」、太ももの「大腿四頭筋(だいたいしとうきん=前もも)」や「ハムストリングス(裏もも)」、ふくらはぎの「下腿三頭筋(かたいさんとうきん)」などです。
なかでも、大臀筋と大腿四頭筋は、人体でも最大級の筋肉なのです。こうした下半身の筋肉は、体重を支えてスムーズな歩行をサポートしてくれるだけではなく、血液の循環を助ける“ポンプ機能”も担っています。
心臓はトップアスリート?
血液循環を促すポンプといえば、もちろん「心臓」。心臓からのびる「動脈」が、全身へと血液を勢いよく送り出しています。
脳に血液を送り込むのも、もちろん心臓です。心臓は、生まれてから死ぬまで一度も止まらない超人的な働きをしています。心臓はこぶしほどの大きさの筋肉のかたまりであり、誰の胸にもあるトップアスリート中のトップアスリートともいえます。
立っているとき、血液のおよそ7割は、心臓よりも下を巡っています。心臓より上を巡る血液は重力に従って心臓に戻りますが、心臓より下の血液は重力に逆らって心臓まで戻ってこなくてはなりません。
下半身に備わる“乳搾り機能”とは?
血液が心臓に戻る際の血流を助けてくれるのが、下半身の筋肉なのです。これが「足は第二の心臓」といわれるゆえんです。ウォーキングをするのも効果的ですが、家のなかで積極的に足を動かして、血流を促すだけでも効果があります。
そこで、筋肉のポンプ作用を簡単に知っておきましょう。血液を心臓に戻す血管は、「静脈」ですね。静脈の周囲にある筋肉を動かすたびに、静脈は「圧迫」されます。続いて、筋肉がゆるむと静脈は「開放」されます。この繰り返しで、まるでバケツリレーのように血液を下から上へ、下から上へと送り出しているのです。
このしくみを「ミルキング・アクション」といいます(直訳すると「乳絞り運動」です)。乳牛などの乳首を搾り、搾乳(さくにゅう)する動作に似ていることから、こう呼ばれています。
筋肉を動かすと脳に効く
ここまで読んで、「筋肉の収縮で血液を押し上げても、筋肉がゆるんだ瞬間に重力に引っ張られて血液が落ちるのではないか?」と疑問を抱いた人がいるかもしれません。しかし、そうした心配は無用なのです。
静脈には「弁」がついていて、筋肉が収縮すると圧迫されて弁が開いて血液を上へ押し流し、筋肉がゆるむと弁が閉じて血液の逆流を防いでくれるからです。いわゆる「逆止弁」というものです。
下半身の筋肉を動かすと、このミルキング・アクションが促されて、下半身から心臓へと血液が還流しやすくなり、血液循環が活発になります。脳の血流も促進されますから、脳の神経細胞にも、新鮮な血液と栄養が供給されます。
また、筋肉は動かして使うほど、太く強くなってくれます。このトレーニング効果で下半身のポンプ機能が強化されると、血液循環はさらにアップするのです。
※本稿は、『91歳の現役医師がやっている 一生ボケない習慣』より一部を抜粋・編集したものです。本書には、脳が若返るメソッドがたくさん掲載されています。ぜひチェックしてみてください!