「走りながら考えればいい」という風潮が危険な理由

2022年3月9日に『起業家の思考法 「別解力」で圧倒的成果を生む問題発見・解決・実践の技法』を出版した株式会社じげん代表取締役社長の平尾丈氏。25歳で社長、30歳でマザーズ上場、35歳で東証一部へ上場し、創業以来12期連続で増収増益を達成した気鋭の起業家である。

その平尾氏と対談するのは、オイシックス・ラ・大地株式会社代表取締役社長の髙島宏平氏。東京大学大学院時代に自らベンチャー企業を立ち上げた後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。2000年にオイシックス株式会社を設立し、2013年に東証マザーズ、2020年に東証一部へ上場。企業経営に限らず、越後妻有を魅力ある地域にしていくことを目的とした「大地の芸術祭」などを手掛けるNPO法人「越後妻有里山協働機構」の副理事をつとめるなど多彩な分野で活躍されている。

不確実性が高く、前例や正攻法に頼れない時代。そのなかで圧倒的な成果を出しているおふたりに「起業家の思考法」について語っていただいた。
連載第1回は、『起業家の思考法』の中心となる概念「別解力」について、話が及んだ。髙島氏は「別解力」についてどのように見ているのだろうか。
(構成 新田匡央)

尊敬する大社長との出会い

――髙島さんと平尾さんの出会いについて教えてください。

平尾丈(以下、平尾):髙島さんは、起業家で知らない人はいないというほどカリスマ社長です。私は学生のころからのファンで、ずっと注目させていただいていました。髙島さんの講演会は学生のころから拝見していましたが、じげんの社長になってからお会いしたのは、8年前のG1ベンチャーでした。髙島さんも参加されていて、そのときに「ファンです」と声をかけたのが初めてだったと思います。

髙島宏平(以下、髙島):あまり覚えていませんが、たぶんそうだと思います(笑)。私の認識では、平尾さんが有名になったあとに出会ったと記憶しています。そのときに、探偵のように私のことをよく調べていて(笑)。平尾さんは一見するとオタクっぽくない。キラキラしていて、華やかなオーラがある。にもかかわらず、ものすごく細かいところまで調べている。そのギャップに驚いて、最初はすこし警戒してしまいました(笑)。

平尾:でも、個人的にはかわいがっていただいていると思っております(笑)。

走ることに一生懸命になってしまう

平尾:宏平さんは、三つのすぐれた別解をやってこられたと思っています。生鮮食品のインターネット通販で黒字化して上場までしたのは、おそらく世界初の事例で、そこが宏平さんのひとつ目の別解のポイントだと思います。

もうひとつは、業界の天下統一を実現し、業界そのものを変えたところです。業界には老舗もあるなかで、大地を守る会やらでぃっしゅぼーやと経営統合をし業態を世の中の変化とともに変えてきました。オイシックス自体が有名なサービスなのに、そこで終わらずに天下統一まで果たしている。それがふたつ目の別解力と言っていいと思います。

三つ目は、ご自身の事業を伸ばしながらも、複数の社会貢献活動をパラレルで走らせていらっしゃる点です。TABLE FOR TWOのファウンダー、越後妻有の「大地の芸術祭」のオフィシャルサポーターをはじめ、日本車いすラグビー連盟の理事長もやられています。たいへんお忙しいのに、社会貢献活動もされている。事業と社会貢献活動をセットでやっていくキャリアは、それまでの起業家は選ばなかったと思います。ご自身の事業の社会性がそもそも高いうえに、さらに違うドメインでもリーダーシップを発揮されている。それが三つ目の別解力だと思います。

髙島:ありがとうございます。すごく褒められてしまいましたけど(笑)。ただ、天下統一なんて全く実現できていないと思っていて、毎日坂道を登り続けています。

――平尾さんの話を踏まえ、髙島さんがご自身を「別解力」の三つのフレームで分析するとしたら、どうなると考えられますか。

髙島:「別解力」の概念は、この本のすごいところだと思いますね。昔、私のような「人がやらないことをやりたいと思う人」は、「別解力」とは名づけられず、「あまのじゃく」と呼ばれました。その「あまのじゃく」と呼ばれた人が誰しも成功するわけではないし、ほとんどの「あまのじゃく」は失敗します。

でも、ときに成功する人がいる。その違いと原因を分析した、たいへん素晴らしい本だと思います。平尾さんのように「優れたやり方」という「基本」がわかっているから、「あまのじゃく」でいることに意味があるのです。基本がわからない「あまのじゃく」は、単なる無知な人になってしまいます。

「走りながら考えればいい」という風潮が危険な理由髙島宏平(たかしま・こうへい)
オイシックス・ラ・大地株式会社代表取締役社長
東京大学大学院修了後、マッキンゼー日本支社勤務を経て、2000年6月に「一般のご家庭での豊かな食生活の実現」を企業理念とするオイシックス株式会社を設立。2013年に東証マザーズに上場。2016年、買い物難民への移動スーパー「とくし丸」を子会社化。2017年には「大地を守る会」、翌2018年には「らでぃっしゅぼーや」との経営統合を実現し、食材宅配3ブランドを擁するオイシックス・ラ・大地株式会社代表取締役社長に就任。2019年にアメリカでヴィーガンミールブランドを展開するPurple Carrotを子会社化し、Directorに就任する。オイシックス・ラ・大地株式会社は2020年に東証第一部へ指定替えとなる。※2022年新市場区分への再編によりプライム市場へ移行。
2007年、世界経済フォーラムYoung Global Leadersに選出。2011年3月の大震災後に、一般社団法人「東の食の会」の発起人として復興支援活動を精力的に開始。2016年には「大地の芸術祭」で生まれた作品やプロジェクトを運営し、越後妻有を魅力ある地域にしていくために設立されたNPO法人「越後妻有里山協働機構」の副理事に就任した。2018年からは一般社団法人日本車いすラグビー連盟 理事長に就任し、経済界からパラスポーツを支援。2020年にはEY Entrepreneur Of the Year日本代表に選出。2021年より経済同友会副代表幹事に就任。
著書に、『ぼくは「技術」で人を動かす』(ダイヤモンド社)、『ライフ・イズ・ベジタブル』(日本経済新聞出版社)がある。

平尾:ありがとうございます。

髙島:私は、ベンチャーの風潮にある「走りながら考える」という考え方を、非常に危険だと思っています。走ることに一生懸命になってしまうので、実は走りながら考えられることはあまりないからです。考えて、考えて、考え抜き、あとは走ってみなければわからないという領域に到達してから走り始めるべきだ。それが正しいと常々思っています。

考え抜くためには、さまざまな事例を自分の引き出しに入れたうえで、「あまのじゃく」側にポジションを取ってみる。本書で示されたその考え方は、とても大事だと思いました。

平尾:ありがとうございます。非常に嬉しいです。

(第2回へ)

「走りながら考えればいい」という風潮が危険な理由平尾 丈(ひらお・じょう)
株式会社じげん代表取締役社長執行役員 CEO
1982年生まれ。2005年慶應義塾大学環境情報学部卒業。東京都中小企業振興公社主催、学生起業家選手権で優秀賞受賞。大学在学中に2社を創業し、1社を経営したまま、2005年リクルート入社。新人として参加した新規事業コンテストNew RINGで複数入賞。インターネットマーケティング局にて、New Value Creationを受賞。
2006年じげんの前身となる企業を設立し、23歳で取締役となる。25歳で代表取締役社長に就任、27歳でMBOを経て独立。2013年30歳で東証マザーズ上場、2018年には35歳で東証一部へ市場変更。創業以来、12期連続で増収増益を達成。2021年3月期の連結売上高は125億円、従業員数は700名を超える。
2011年孫正義後継者選定プログラム:ソフトバンクアカデミア外部1期生に抜擢。2011年より9年連続で「日本テクノロジーFast50」にランキング(国内最多)。2012年より8年連続で日本における「働きがいのある会社」(Great Place to Work Institute Japan)にランキング。2013年「EY Entrepreneur Of the Year 2013 Japan」チャレンジングスピリット部門大賞受賞。2014年AERA「日本を突破する100人」に選出。2018年より2年連続で「Forbes Asia's 200 Best Under A Billion」に選出。
単著として『起業家の思考法 「別解力」で圧倒的成果を生む問題発見・解決・実践の技法』が初の著書。