信頼性と親しみやすさを両立したデザイン

――本のカバーは、イラストとその独特なピンク×ブルー×ベースのグレーという色合い、タイトルのフォントを含めて、すごく印象的なうえに、知的なデザインだと思いました!

田畑 ブックデザインは鈴木千佳子さんにお願いしました。装幀、本文デザインいずれも鈴木さんによるものです。

『WHAT IS LIFE?』『若い読者に贈る美しい生物学講義』など、これまでにも多くの本をご一緒していますが、鈴木さんは、いわゆる意匠やデザインだけではなく、「本をどう読むか」という読書体験そのものを設計してくださる方だと感じていて、尊敬しているデザイナーです。今回も迷うことなく、鈴木さんに依頼しました。

鈴木さんにはいつも事前に原稿を送付しておいて、原稿の難易度や、著者の語り口のテンポ感なども共有しながら打ち合わせをするのですが、今回は、入門書としてのある種の親しみやすさはありながらも、サイエンス書としての信頼性を両立させたいということ、そのためには本文はどれくらいの文字組が適切であるか、小見出しは何行分のスペースにするとちょうどよいかなど、話し合いました。

鈴木さんからは、打ち合わせで「知識を読み込むだけではなく、自分にとって身近な人体を捉え直す楽しさがある本なので、そこを含めてデザインで伝えてあげたいですね」と提案していただきました。

結果、でき上がったのが、こちらの本文レイアウトです。

医学生が学ぶポイントも網羅! 外科医が一般むけにまとめた「人体の教養書」本書のレイアウト

本文は、けい線の引かれた大きな横見出しが印象的ですが、これは、カルテをイメージしていると、後から教えていただきました。

――カルテ! なるほど!

田畑 イラストを(先ほどの巻頭全身図も描いていただいた)竹田嘉文さんに依頼したのも鈴木さんによる提案です。人体を描くことはなかなか難易度が高いと思うのですが、竹田さんの精密でありながら、どこかレトロなイラストの力で、新しさもありながらクラシックな雰囲気もするサイエンス書に仕上がったと思います。

また、鈴木さんは、カバーのアイデアを打ち合わせしながら、手描きのラフ案で提案してくださることが多いのですが、今回も同様の進め方でした。最初からほぼ最終形に近い、凄い設計案を提示していただきました。

医学生が学ぶポイントも網羅! 外科医が一般むけにまとめた「人体の教養書」鈴木千佳子さんが最初の打ち合わせでまとめてくださったラフ案。この時点で最終形に近く、完成されている。

――デザイン全体が計算しつくされているんですね。

田畑 カバーの彩色も印象的ですが、竹田さんのイラストに鈴木さんが色をつけています。鮮やかなサーモンピンクは、血の色や肉体をイメージしており、ブルーは、本文でも言及されている医師のガウンの色である水色から発想しているそうです。

人体についての本であり、医学についての本であり、医学の発展に人生をかけた医師たちの人間ドラマである本書の内容とも関連付けて、複数のイラストが配置されています。

実際のデザイン案ができあがったあとは、私からはどのイラストを入れるかについて提案をさせていただいたくらいです。

鈴木さんとは、書籍の内容に関する話は1時間くらいで、そのあと1~2時間ほど雑談することも多いのですが、本の話、デザインの話、最近、気になっていることなどを共有することも含めて、編集者が実現しようとしている「本の世界観」を汲み取っていただいていると感じます。

――この本の読者層は、意外にも女性が多めとか?

田畑 そうなんです。6:4で女性が多いです。教養書はだいたい男性のほうが多いものですが、珍しいケースです。

また、年齢も幅広い層に読まれています。人体という「身近なテーマ」を入り口に、一本あたりが短めの読み切りエッセイで構成された本なので、性別、年代を問わずに読みやすく、楽しめる本になっているのだと思います。

そのためか、「中学生の子どもにも読ませてみます」という親世代の感想も見かけます。

――親子で読んでいただけるというのも嬉しいお声ですね。

田畑 「自分の体にこのような秘密やメカニズムがあったとは」と驚きと知的好奇心を刺激されている読者が多いようです。

また、書名にもあるように、本全体のメッセージとして「人体のすばらしさ」を著者が語っていることも大きいようです。

この2年近く人体をテーマにした話題はコロナに関連するものが多かったため、どこか重苦しかったと思いますが、そのぶん、本書の前向きな姿勢、メッセージに励まされた、という嬉しい感想が著者にも届いています。

医学生が学ぶポイントも網羅! 外科医が一般むけにまとめた「人体の教養書」