唾液はどこから出ているのか?、目の動きをコントロールする不思議な力、人が死ぬ最大の要因、おならはなにでできているか?、「深部感覚」はすごい…。人体の構造は、美しくてよくできている――。外科医けいゆうとして、ブログ累計1000万PV超、Twitter(外科医けいゆう)アカウント10万人超のフォロワーを持つ著者が、人体の知識、医学の偉人の物語、ウイルスや細菌の発見やワクチン開発のエピソード、現代医療にまつわる意外な常識などを紹介し、人体の面白さ、医学の奥深さを伝える『すばらしい人体』が発刊された。坂井建雄氏(解剖学者、順天堂大学教授)「まだまだ人体は謎だらけである。本書は、人体と医学についてのさまざまな知見について、魅力的な話題を提供しながら読者を奥深い世界へと導く」と絶賛されたその内容の一部を紹介します。
医師の君主
ヒポクラテスののち、西洋医学にもっとも大きな影響を与えた人物が、二世紀頃の古代ローマで活躍したクラディウス・ガレノスである。
ガレノスは、ヒポクラテスの教えを発展させ、古い文献を収集して膨大な理論を築き上げ、中世では「医師の君主」ともいわれた。
動物解剖の成果を積み重ねる
宗教的な理由で人体解剖が禁止されていた当時、ガレノスは猿や豚などの動物の解剖を繰り返した。
脊髄をさまざまな部分で切断して神経の支配領域を調べたり、腎臓と膀胱をつなぐ管(尿管)を結んで尿が腎臓でつくられることを示したりなど、さまざまな知見をまとめた。
また、ガレノスは四体液のバランスを整える上で瀉血をもっとも重視し、加えて薬草治療や下剤、手術など、数々の治療法をまとめ上げた。
ガレノスの著作は計五〇〇万~一〇〇〇万語に上るともいわれ、その学説はキリスト教の教義と結びつき、侵すことのできない理論となった。
大きすぎる権威の落とし穴
当然ながら、動物を解剖した経験に基づくガレノスの理論には、さまざまな誤りが含まれていた。しかし、その大きすぎる権威に誰も異を唱えることはできなかった。
時にガレノスは医学の進歩を千年以上遅らせたとまでいわれるが、こうした経緯が理由である。
(※本原稿は『すばらしい人体』を抜粋・再編集したものです。)
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『すばらしい人体』には、「人体の面白さ」から「医学の歴史」までが紹介されています。ぜひチェックしてみてください。