保険会社側のニーズは、当面の高い実現利益をインカムゲインの形で得て決算を乗り切り、それに見合う含み損やリスクを時価評価されない形で抱え込むことであった。仕組み債には上場商品のような客観的時価が存在せず、当時の会計ルールではほぼ取得価格のままで評価しておくことが可能だった。実質的に粉飾決算だと言って間違いない。その後、2~3年で償還会社側から見て複数の「上得意」の保険会社が経営破綻した。

 販売する側から見ると、例えばA保険にこの種の仕組み債を100億円買ってもらうと、販売した証券会社は数億円(例えば5億円から8億円くらい)の利益が出る。そして、それを販売したセールスマンはその販売だけで数千万円(2000万円から5000万円くらい)ボーナスが増える、といった商品だった。売る側も必死だ。

 現在売られている個人向けの仕組み債は、1回でこれほどの手数料を取っていないかもしれない。しかし、上記は数年から10年、20年が満期の債券だが、今のものはもっと満期が短くて販売サイクルも短い。そのため、むしり取られる実質的な手数料率はかつて破綻した保険会社よりも大きくなっているに違いない(顧客の幸運か資金かが続いていればの話だが)。

 筆者は当時、幸い仕組み債のセールスマンではなかったが、仕組み債を売っている同僚には「それは反社会的な商売であり、購入したいという顧客のニーズは本来のニーズではあり得ない」と言っていた。だが、そのセールスマン氏は「いや、顧客にはニーズがある」と言って議論が折り合うことはなかった。

 今さら彼らを見つけ出して、当時の議論を蒸し返す気はない。しかし、彼らの商売が劣化したミニチュア版のごときものが、現在個人向けに販売されていることは全く我慢がならない。

 本当は、個人だけではなく、学校法人などに「より大きなカモ」が残っているかもしれない。ただ、少なくとも個人顧客向けの仕組み債の販売は、即刻全面的に禁止することが必要だ。業界団体や個別会社ごとのルール設定、情報開示のルールなどでお茶を濁している場合ではない。

 禁止が「望ましい」という生ぬるい話をしているのではない。禁止は「必要」なのだ。